昨日は久しぶりの秋日和。穏やかな陽射しに誘われるように家人と電車を乗り継いで早稲田界隈を散策。先ずは馴染の定食屋で腹拵え、といっても満腹必至の「キッチン オトボケ」ではなく、知る人ぞ知る魚定食の名店「お食事処
たかはし」にする。二人揃って銀むつの煮魚定食を所望。ふっくらして旨いのなんの。
腹が膨れたところで少し歩いて都電の始発駅の辺りから脇道に入り、神田川を渡って旧細川庭園の
新江戸川公園へ。ちょっと鄙びて寂れた雰囲気が好もしい。ただし藪蚊が多いのが難点か。鬱蒼たる木立を抜けて急な階段をゆるゆる上るとそのまま目白台の
永青文庫敷地に出た。ただし難しそうな展示は遠慮して、そのまま隣接する
和敬塾(『ノルウェイの森』冒頭に出てきますね)の建物群を横目で観ながら通過すると正面にコンクリートの尖塔が見えてきた。
東京カテドラルだ。誰もが知る丹下健三の代表作。やがて尖り屋根の大聖堂も視界に入った。
なんとなく吸い寄せられるような按配でふらりと教会の敷地に立ち入ってしまう。「聖堂入口」の表示に従って、恐る恐るカテドラルに足を踏み入れた。1964年の創建というから築ほぼ半世紀、打ち放しのコンクリートは流石に煤けた色に変じているものの、鋭角状に天を仰ぐ空間が醸し出す神々しさはどうだ。不信心者も思わずひれ伏したくなる。脇の奥まった一隅にはミケランジェロ作『
ピエタ』原寸大の模刻大理石像がひっそり鎮座しているが、これには見憶えがある。高校生の頃、赤坂だか青山だかで『ダヴィデ』『モーセ』と一緒にお披露目された展示を難有く仰ぎ見た。それと恐らく同一だろう。ここにあったとは知らなんだ。
表に出ると外の光が眩しい。喉が渇いたので境内の自販機でコーラを購めて一服。敷地には洞窟めいた設えにマリア像が祀ってある一郭があり、「
ルルドの泉」の原寸大模型という。聖母が出現した霊験あらたかな奇蹟の泉だそうで、湧き出す水には重病人をも癒す力があるそうな。五歳の頃、通っていた近所のカトリック幼稚園で神父様からこの挿話を拝聴した小生は「そんな莫迦な話があるものか、もし湧き水で病気が治るならお医者さんは要らないだろう…」と心の奥底で頑なに反駁したものだ。三つ子の魂百まで。爾来ずっと信仰とは無縁のままだ。
そんな罰当たりな思い出に耽りながらカテドラルを後にし、再び早稲田方面へ引き返すのも難儀なので、そのまま椿山荘を過ぎて道なりに別の坂道を下り、神田川に沿った細長い公園へ。神田川流域なのに
江戸川公園とはこれ如何に? さっぱり理屈が呑み込めぬまま歩を進めたら二人共そろそろ脚が草臥れた。少しベンチで休憩後もと来た道を引き返して地下鉄の江戸川橋駅から帰途に就いた。
帰宅してネットで由来を少し調べたら、「江戸川」とは神田川中流の古称だそうで、1970年まで歴とした正式名称として用いられていた由。知らなかったなあ、いやはや、これだから無知な田舎者は恥ずかしい。