1998年だったか、はるばる馬籠の藤村記念館まで赴いて貴重な資料を調査したことがあった。本職の写真家に同行を依頼し、許可を得て藤村お手製のアルバムを特撮接写させて頂いた。個人的な興味に基づく私的な探索なので十数万かかった費用は自腹だった。我ながらよくやったものだと思う。
廃館間際のセゾン美術館で催された「ディアギレフのバレエ・リュス」展カタログに寄稿した拙文で、その成果のほんの一部を発表したのだが、かなりの枚数を撮ったポジ・フィルムはあれ以来ずっと抽斗に眠ったままだ。これではならじ、まずはそのときのカラー画像をデジタル・データに変換しておこうと思い立ち、近所の写真屋に相談してみたら、思いもよらぬ事実を告知された。
ポジ・フィルムからのスキャン&デジタル画像化は通常の35ミリ(いわゆるスライドである)のみ可能で、それ以外のサイズは受け付けないというのである。持参したポジはブローニーの「6×7cm判」。プロ仕様のカメラで精密に撮られてはいるが、極端な大判フィルムではなく、ごく一般に用いられたサイズである。
この店舗は富士フィルムの系列店なので「どこか同系列の別のラボで引き受けて貰えないだろうか」と相談したのだが、マニュアルには「
35ミリ以外は受付不可」とあって駄目なのだという。そう聞いて、目の前が真っ暗になった。このままでは苦労して撮影した大切な資料写真が宝の持ち腐れになってしまうではないか!