昨晩の厄介な卓上作業は結局あのあと午前三時までかかった。予想以上に訂正箇所が多かったのでメールでの指示出しは危険を伴う。校正刷の現物を持参して上京、編集部に手渡しで戻した。これですっきり肩の荷がおりた。ふう。
わざわざ神保町まで出向いたのは無駄足ぢゃなかった。帰路ちょっと覗いた某店で長く垂涎の的だった稀少なディスクを発見したからである。
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Anneliese Rothenberger: Portrait II" なる三枚組アンソロジー。その二枚目にこよなき至宝が潜んでいた。
リヒャルト・シュトラウス:
四つの最後の歌
親しい幻
あした!
わが子に
解き放たれて
献呈
ソプラノ/アンネリーゼ・ローテンベルガー
アンドレ・プレヴィン指揮
ロンドン交響楽団
1974年12月13~16日、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ
EMI Electrola 5 68795 2 (1995)
シュトラウスを得意とした不世出の名ソプラノ(あの絶妙なズデンカ、ゾフィー!)が遺した「四つの最後の歌」唯一の正規録音。その価値は計り知れない。しかも若き日のプレヴィンの指揮とあればまさしく鬼に金棒だろう。
歴史的に回顧するなら、この録音は世に出た史上九つ目のスタジオ録音にあたる。因みに備忘録ふうに列記するとこうなる(独唱、指揮、録音年)。
01. リーザ・デッラ・カーサ/カール・ベーム (1953)
02. エリーザベト・シュヴァルツコップ/オットー・アッカーマン (1953)
03. クリステル・ゴルツ/ハインリヒ・ホルライザー (1956)
04. ハンネ=ローレ・クーゼ/ヴァーツラフ・ノイマン (1964)
05. テレサ・シュティッヒ=ランダル/ラースロー・ショモジー (1964)
06. エリーザベト・シュヴァルツコップ/ジョージ・セル (1965)
07. グンドゥラ・ヤノヴィッツ/ヘルベルト・フォン・カラヤン (1973)
08. リオンティーン・プライス/エーリヒ・ラインスドルフ (1973)
09. アンネリーゼ・ローテンベルガー/アンドレ・プレヴィン (1974/当盤)
詳しくは拙ディスコグラフィを参照されたい(
その1、
その2)。
百以上もの新旧録音が市場に犇めきあい、ソプラノならば猫も杓子も歌いたがり、軽率にも録音に臨むような現今の状況では想像すらできないが、1950年の世界初演から四半世紀間に世に出たスタジオ録音は、管見の限りでは僅かこの九つしか存在しない。余りにも少ないのだ。
察するにシュトラウス最期の歌曲集は神聖にして冒すべからざる高貴な存在だったから、おいそれと音盤に刻むことの許される楽曲ではなかったのだろう。ましてや駆け出しの若輩歌手には手の届かない高嶺の花だったに違いない。
稀代のシュトラウス歌手が云わば「満を持して」臨んだ録音だった筈だ。LP初出は1975年。そのアルバム・カヴァー(
→これ)を微かに記憶しているものの、架蔵してはいない。ちょうどその頃から十年以上もクラシック音楽と疎遠になったからだ。気づいたらCD時代が到来しており、ローテンベルガー=プレヴィンの「四つの最後の歌」は世界中で等閑視され、容易に聴くことは叶わなかった。小生の知る限り、この地味なアンソロジー盤に収録されたのが唯一の機会だと思う。
(まだ聴き出し)