集合住宅の塵芥捨場に読み捨てられた書物が百冊ほど放置された一郭がある。読みたい本は自由に貰っていい決まりである。ただし料理・スポーツ・旅などの実用書、経営指南や社員教育の本、数年前のベストセラーの類いが大半で、いつもだと一向に食指が伸びないのだが、今日は通りすがりに一冊の文庫本のタイトルがふと目に入った。これは面白そうだ、拾っていこうか。どうせ無料なのだから。
小鷹信光
アメリカ語を愛した男たち
ちくま文庫
1999
タフな私立探偵が活躍するアメリカ20世紀のハードボイルド小説。それらの細部を丹念に読み解きながら、そもそも hard-boiled/ hardboiled なる語はどんな意味をもつのか、tough とは如何なる性質を指す言葉だったかを、多くの実例から検証するスリリングな一冊。古くはオー・ヘンリーに端を発し、
谷譲次にも愛用されたという形容詞「ハードボイルド」がどのような経緯から寡黙で無愛想な強面のディテクティヴたち、オプたちの行動や心的態度に用いられるに到ったのかを、実際の使用例に基づきつつ解き明かす著者の博捜ぶりには脱帽だ。
ハメット、チャンドラーは勿論だが、小生の好きな
デイモン・ラニアンや
ベン・ヘクトにもそれぞれ一章が与えられているのも嬉しいところだ。ジェームズ・M・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」にも新たな光が投じられる。
それにしても、こうした作品に用いられた俗語表現の豊富さといったらない。
(まだ書きかけ)