ベルリンにはとんと馴染がない。訪れたのはたった二度、いずれも短期間の滞在だったから街の印象も断片的なものに留まる。それでも2003年の再訪時には公用のクーリエ業務の合間を縫うように、市内の幾つかの美術館・博物館を慌しく観て廻った。因みに「クーリエ」とは貸出作品の輸送に付き添うこと、もしくはその任にあたる館員のことを指す業界用語である。
フランクフルトでの乗継に手間取り、ベルリンに着陸したのは当初の予定を五時間もオーヴァーした深夜近く。空港の閑散とした貨物倉庫で荷物(時価十数億の絵画である)をトラックに積み込むと助手席に同乗し、そのまま暗闇をひた走った。どこをどう移動したのか、目的地の
ドイツ・グッゲンハイム・ベルリンに着いたら午前一時半を回っていた。こうした場合、とにかく美術品を先方に速やかに送り届けるのが最優先される。深夜だろうと早朝だろうと関係ないのである。
当然ではあるが館員は待機していた。仕事とはいえ深夜までご苦労なことだ。まあ、お互い様といったところだろう。作品を収納した頑丈な木箱をトラックから下ろし、展示会場の床まで慎重に移動する。ただし当夜の作業はここまで。いきなり開梱すると環境の急変から作品に思わぬダメージを及ぼしかねない。二十四時間そのまま安置するのが国際的なルールなのだ。
ホテルにチェックインしたのが二時半。空腹を覚える暇もなく泥のように眠った。
翌朝は七時に目が覚めた。睡眠不足と時差ぼけとで疲労困憊の筈なのに何故だか覚醒している。今日はまるまる完全にOFF。仕事は何ひとつない。とは云うもののベルリンまで来てホテルの寝台で無為にうたた寝も阿呆らしい。
朝食もそこそこに外出、先ずは
ユダヤ博物館 Jüdisches Museum Berlin を訪ねる。一年程前に開館したばかりの話題の場所だ。ユダヤ民族三千年の歴史を通覧する凄絶な展示に息を呑む。至るところ床が傾いでいるリベスキンド設計の建物に立ち眩みしそう。衝撃と感嘆の果てに旅の疲れは極に達した。
こうなったら毒喰わば皿までも。同僚から「ここは必見」と推奨された現代美術館
ハンブルガーバーンホフ Hamburger Bahnhof: Museum der Gegenwart を目指す。廃駅を美術館に改造した広壮な空間だ。ウォーホル、トウォンブリー、メルツ、キーファー、そして数多くのボイス。もう飽和状態である。
(明日につづく)