(承前)
先日、foggykaoruさんの読書ブログで新田次郎の『
つぶやき岩の秘密』が復刊されたことを知った(
→ここ)。新潮文庫の新刊なのだという。驚いたなあ。
なにしろこの作品は1972年に「新潮少年文庫」の一冊として出て以来、全集を除いては恐らく一度も活字になっていないのだ(察するに児童書として「不適切」な表現の故か)。今年は新田次郎の生誕百周年だそうで、それを記念するフェアの一環として四十年ぶりの復刊が叶ったということらしい。
foggykaoruさんの評言は端的である。曰く、
あまりにもランサム的なのです。ランサム・ファン必読の書。[...]これは第一級の冒険小説です。
ただし孤独。いつも子どもたちがわさわさやってるランサムの世界と違って、
ちょっと寂しいのよねん。
でも素晴らしい。
この作品を形容する言葉としては「高潔」がふさわしい。因みに筋金入りのランサマイト(=アーサー・ランサム愛好者)である彼女にとって「
ランサム的」とは最大級の賛辞なのである。ここまで絶讃されては、その末席に連なる者としては一刻も早く再読しない訳にいかないだろう。
同世代の少なからぬ人がそうであるように、この物語を小生もまたNHKのTⅤドラマ(1973)で知った。ただしドラマそのものは翌74年春の再放送時に最終回を視聴したきりなので、観たうちに入るまい。にもかかわらず、このTV版「つぶやき岩の秘密」がことのほか重要なのは、ドラマ主題歌を
石川セリが唄っていたからだ。
その主題歌を最初に耳にしたのはTVではなくラジオを通してだ。当時まだ無名同然だった石川セリの歌声が流れるラジオ番組といえばただひとつ、
林美雄さんがDJを務めていた深夜番組「パック・イン・ミュージック」と相場が決まっていたのである。林さんはレコードになっていない稀少な音源を八方手を尽くして探し出し、自らの番組で流していた。この「つぶやき岩の秘密」主題歌もそうした博捜の成果のひとつだった。何はともあれ聴いていただこうか。尤もイントロが長大で、全六分間のうち彼女の歌が聴けるのはしまいの二分ほどなのだが(
→これ)。
1971年、藤田敏八監督作品《八月の濡れた砂》の主題歌で鮮やかな印象を醸し、翌72年にデビュー・アルバム「パセリと野の花」を世に問うた石川セリは、しかし一般にはまるで認知されなかった。「林パック」のリスナー以外には熱心な支持者は殆ど存在しなかったように思う。73年後半からはコンサートも途絶え、活動休止に近い状態が続いていた。それでも林さんは飽くことなく彼女の歌をかけ続けた。だから「つぶやき岩の秘密」主題歌がシングル盤になると藪から棒に知らされたとき、思わず自分の耳を疑ったものだ。
この曲が新たにスタジオ再録音され、「
遠い海の記憶」の名で正式にシングル盤として発売されたのは1974年8月25日のことである(
→この盤 音源は
→ここ)。奇しくもその日は林さんの三十一歳の誕生日でもあり、それを祝うささやかな催しがあると聞き、聴取者たちが荒天のもと代々木公園に参集した当日にあたっていた(
→第1回サマークリスマス)。石川セリは勿論その日のゲストのひとりだった。
話を新田次郎の原作に戻すと、上京した折に復刊されたその新潮文庫を探したのだが、どういう訳かお茶の水でも有楽町でも書店の棚にも平台にも見当たらない。早々と売り切れてしまったのだろうか。
たかが一冊の新刊文庫をアマゾンで註文するというのも癪である。だから意地になって四、五軒は捜し歩いただろうか、その挙句、なんのことはない、近所にあるスーパー内の書店にひっそり並んでいるのを発見。三日前ようやく手にした次第。やれやれ。表紙絵がなかなか情趣濃やかで秀逸なのだ(
→これ)。
(明日につづく)