先程のダニエル・ホープの盤は全く性に合わなかった。音色に潤いや芳醇が乏しいのは今年一月に英京で実演を聴いた際に感じたところだが、あのときはブリテンの協奏曲だったから「こういう解釈もあるかも」と容認した。だがこのメンデルスゾーンはどうにも性に合わない。聴く耳に歓びを齎さず、なんだか人を不安にさせる演奏だ。音程も処々安定しない。まあ人の嗜好は十人十色だから好きだという人もいるだろう。小生は嫌だなあ、こういう神経症っぽいメンデルスゾーン。
このまま就眠するのは癪に障る。確実に心が安らげるようなディスクをもう一枚。
"Truls Mørk: Schumann / Elgar”
シューマン: チェロ協奏曲
エルガー: チェロ協奏曲
チェロ/トルルス・モルク
ミシェル・タバシュニック指揮
モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団
1990年6月26~29日、モンテカルロ公会堂、オーディトリオム
Lyrinx LYR 100 (1990)
2008年に
トルルス・モルクを英京で聴き逃した(ウィグモアでの室内楽の夕。代役でゲリンガスが出演)。それきり生を知らないので本当のことはわからぬが、随分と渋い、くぐもった地味な音を出す人だ。どちらかと云うと好みぢゃないのだが、この盤ばかりは特別だ。ひっそり心の襞に分け入るような、柔和で内省的な響きに痺れてしまう。いつか生を聴きたいものである。モルクはその後シューマンを小ヤルヴィと、エルガーをラトルと再録音した筈だから、あるいは更なる進境がみられるのやも知れぬが、小生はこの演奏で充分だ。タバシュニック(浮沈の甚だしい波乱万丈の人だ)指揮がまた綿密の極み。なかなか無いよ、ここまで周到な伴奏は。
いつも不思議に思うのだが、このシューマン&エルガーの両協奏曲を組み合わせたディスクがありそうでなかなか存在しない。エルガーが秘曲扱いだったLP時代ならともかく、現今もずっとその状態なのだ。一体全体どういう訳なのか訝しく感じる。仄かな含羞を漂わせ、深く密やかに沈思する、互いに性格の通い合う二曲なのに。これほど似つかわしい姉妹同士はまたとないと思うのだが。