体調がほぼ復したので上京し、毎週金曜の夕刻に行われているという首相官邸前の抗議行動に出向いてみた。参加するのは初めて。
五時頃に到着、国会議事堂前駅から地上に出ると周囲は人、人、人。官邸前の舗道は疾うに人垣で埋まっており、列はそこから衆議院の脇を過ぎ、財務省の交叉点のほうまで延びている。記者会館の前に少し空きがあったので道端に腰を下ろす。夕暮時とはいえ、日向はまだ暑い。
所在ないので暫し読書。その間にも駅からは続々と人が溢れ出てくる。老若男女、実にさまざまな人たちだ。列の末尾は遙か遠方なのでもう見えない。
六時を回ると、そこここから声が上がり始める。最初は遠慮がちに散発的だったが、次第に唱和する人が加わりシュプレヒコールに。いつもと違うのは、その声が申し合わせたように同じひとつの言葉「再稼動反対」だけだというところだろう。誰もが異口同音に叫ぶ。小生もまた持参した赤いメガホンで声を限りに叫んだ。
七時を少し回った頃、ふと周囲を見回すと舗道は汗牛充棟、身動きも儘ならない。警官たちが車道際に並べたコーンを動かしたのを合図に、人々がどっと車道に溢れ出す。不思議にも誰も咎めない。ならば小生もと足を踏み入れ、そのまま人垣を縫うように首相官邸に向かって歩き出す。車道の全幅が抗議の声で埋め尽くされた光景を目にするのは初めてだ。フランス・デモさながら。束の間の解放区。心が逸る。
数分かかってゆるゆる百メートルほど進むと、夕闇のなかに官邸の建物がうっすら見えた。目前には警察の車輌がずらりと横並びに行手を阻んでいる。ここからもまた声を限りに「再稼動反対」を絶叫する。たとえ連中が誰ひとり耳を貸さないにしても、だ。今、声を上げずにいられようか。
このままどうなるのか。進退窮まり、声ももう枯れ果てた。そのとき主宰者の拡声器が唐突に集会の解散を告げた。七時四十分だった。