(承前)
遂に聴く機会を得た作曲家の自作自演「
海の絵」はこの四枚組に収録されている。
"Elgar conducts Elgar: The complete recordings, 1914-1925"
(曲目は膨大なので右サイトを参照
→ここ)
Music & Arts CD 1257 (2011)
昨日そのなかから三枚目を心して拝聴した。
エルガー:
歌曲集「海の絵」*
謎の変奏曲**
行進曲「威風堂々」第一、第四番(短縮版)***
バイエルン舞曲****
幻想曲とフーガ BWV537(バッハ/エルガー編)*****
序曲 ニ短調 ~シャンドス・アンセム(ヘンデル/エルガー編)******
コントラルト/リーラ・ミゲイン Leila Megane*
エドワード・エルガー卿指揮
交響楽団* *** ****
ロイヤル・アルバート・ホール管弦楽団** ***** ******
1922年11月10日、1923年1月8日*
1920年2月24日、11月16日、1921年5月11日**
1914年6月26日***
1914年6月26日、1917年2月28日****
1921年12月7日、1923年10月26日*****
1923年10月26日******
聴き始めはいかにも古色蒼然たる音に違和感を覚えるが、ほどなくそれにも耳が馴れて、率直で深々とした表現に惹き込まれる。旧式のアクースティック録音ながら、音楽の心髄はちゃんと刻まれているのだ。
ディスクが届いたとき、何よりもまずその秀抜なアルバム・カヴァー写真に目を奪われた(
→これ)。往時のエルガー卿の録音風景の一齣である。
電気式録音、すなわちマイクロフォンで集音し電気信号に変換・増幅してディスクに刻む方法が発明される以前は、このように巨大な喇叭をひたすら音源に近づけて音を集めるしかなかった。なんという不自由かつ原始的なやり方だろうか。この写真は1914年1月21日に自作「カリッシマ」を録音した際のものだという。
実は同じこの写真は七年ほど前に東芝EMIから出た別の「エルガー自作自演集」の箱カヴァーを飾ったことがある(
→これ)。ただし、この箱物はエルガー卿の電気録音集成なのだから、喇叭は無関係。このカヴァー写真は致命的な時代錯誤を犯したことになる。本家本元がこの間違いとはちょっと恥ずかしい。
それはともかく、今回の自作自演集成は素晴らしい。エルガー旧蔵のSP盤を注意深く覆刻したという音は驚くほど明瞭、しっかり芯のある音だ。この「
海の絵」も実に聴きやすく、喇叭録音の威力を思い知る。リーラ・ミゲイン(この表記に自信はない)の歌唱も心の籠った秀逸なもの。管弦楽伴奏も平板な音ながら指揮の意図はよく伝わる。なにしろこれはエルガーが遺した唯一の「海の絵」だから値千金なのだ。