所用で岩本町に足を運ぶことになった。とんと不案内な街なので予め地図を繙くと、都営地下鉄の同名の駅から程近い場所だ。ただし些か行き辛い。どうやらJR神田駅からも近そうだ。ざっと十分位だろうか。日和も良いことだし、散歩がてら歩いてみることにしよう。大体の方角は見当がつく。
ところがこの界隈は線路と街路とが斜に交叉しているためか、油断するとたちまち方向を見失う。案の定ほんの数分も歩かぬうちに東西南北が判然としなくなった。当てずっぽうに大通りから裏道に迷い込んだ。街路表示は鍛冶町一丁目とある。
角を曲がった途端、年ふりて格調の高い褐色のビルヂングが忽然と姿を現す。おゝと声にならぬ感嘆が口をつく。この建物にはたしかに見憶えがある(
→これ)。かれこれ二十年も前だろうか、藤森照信氏の建築探偵本に存在を教えられ、一度ここまで観に訪れたことがあったっけ。今もなお健在であったか!
いやはや、この建物は実に素晴らしい。「
丸石ビルディング」といい、1931年に竣工した擬ロマネスク風の様式建築。元々は「太洋商会ビル」と称し、米国ゼネラル・モーターズの乗用車のショールームが一階にあり、最上階には日本ビクターの録音スタジオが設けられたというから、戦前にはハイカラの粋を極めた建物だったのだろう。しかも手入れが行き届き、保存状態が抜群に秀でているから、思わずその場に立ち止まって見惚れてしまう。何しろファサードが美しい(
→これ →これ)。
(まだ書きかけ)