久しぶりバレエ・リュスに思いを馳せる。今年は「牧神の午後」や「ダフニスとクロエ」が初演されてから百年になるのだが、その話題は後日に回し、今日は1910年の第二回パリ公演を回想する。巷で評判のディスクを漸く手にしたからだ。
ストラヴィンスキーの「
火の鳥」をピリオド・インストルメンツ、すなわち初演時に近い旧式の仏蘭西楽器を用いたオーケストラで百年ぶりに蘇演した注目盤である。
歴史的なその初演は1910年6月25日、パリのオペラ座。その晩ピットに入ったのは当時フランス屈指の腕前を誇ったコンセール・コロンヌ管弦楽団。指揮はこの年に歿したコロンヌから常任を引き継いだばかりのガブリエル・ピエルネだった。
ピエルネは「火の鳥」の録音を残さなかった。戦前のパリのオーケストラに拠る録音は作曲者が1928年11月に指揮した抜粋盤SP(楽団名は匿名の「大管弦楽団」。曲目は1911年の「第一組曲」と1919年の「第二組曲」の折衷版)しか存在しない筈である。初演時の演奏が果たして如何なるものだったかは今となっては確かめようもない。もはや霧の彼方なのだ。
"Stravinsky ~ L'Oiseau de Feu ~ Les Siècles Live"
バレエ音楽「東方風(レ・ゾリアンタル)Les Orientales」
■ グラズノーフ: サラセン人たちの入場 ~「ライモンダ」
■ グラズノーフ: 東方の踊り ~「ライモンダ」
■ グラズノーフ: パ・ド・ドゥー ~「四季」バッカナール
■ シンディング: 東方の踊り 作品32-5 (チャーリー・パイパー編)
■ アレンスキー: エジプトの踊り ~「エジプトの夜」
■ アレンスキー: 蛇使女 ~「エジプトの夜」
■ アレンスキー: ガージたちの踊り ~「エジプトの夜」
■ グリーグ: 魔神 ~抒情小曲集 作品71-3 「小鬼」(ブルーノ・マントヴァーニ編)
ストラヴィンスキー:
バレエ音楽「火の鳥」
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮
レ・シエクル2010年10月2日、パリ音楽都市(実況)
2010年10月9日、ラン大聖堂(実況)
harmonia mundi Musicales Actes Sud ASM 06 (2011)
本盤のユニークさは単に「火の鳥」をオリジナルに近い音で提示するに留まらない。「火の鳥」と同日に新作として初演されながら忘却の淵に沈んだバレエ「
東方風」の音楽を果敢に復元・再構成する。こちらも劣らず興味津々なのだ。
「東方風」が今に残らないのも無理はない。これは当時の観客が好んだオリエンタルな異国趣味に応えるべく、ディアギレフが急拵えで仕込んだ「寄せ集め」のオムニバス・バレエだからだ。1909年の「饗宴 Le Festin」「クレオパトラ」と同工異曲、既存のロシア音楽を恣意的に繋いだだけの作品はいっとき拍手喝采を博したものの、急速に人気を失い忘れられた。今となってはニジンスキーが踊った「シャムの踊り」(
→これ、
→これ)の神話的な画像のみで僅かに想起される作品なのである。
今回の「復活演奏」は完全でない。初演時に用いられたシンディング「東方の踊り」(タネーエフ編)とグリーグ「小鬼」(ストラヴィンスキー編)のオリジナル譜は散逸し、新たに編曲を依頼せねばならなかったし、併せて使用されたと諸書にあるボロディンの楽曲が省かれた理由も判らない。そもそも本CDに用いられた音楽が初演時と同じものなのか、曲の配列がこれで正しいのか否かも、なんとも判断しかねる。
何はともあれ物は試しと半信半疑ながら復元版「東方風」を聴き始めハッと気付く。この音色にはたしかに耳馴染があるぞ、と。軽く涼やかな木管、毳(にこげ)のように柔和な感触の弦楽合奏には聴き憶えがある。グラズノーフの「バッカナール」に差し掛かったとき、ああそうだ、随分と昔になるが、
アルベール・ヴォルフが指揮した「四季」がまさしくこの音色配合だったと膝を打つ。1955年のパリ音楽院管弦楽団には古式床しい音色のパレットがまだ健在だったのだ。
(まだ聴きかけ)