どうもいつもと違う寝心地にふと目覚める。面白い夢を見ていたような気がしたが、起きた途端に忘れてしまう。硬いベッドの感触にああ旅先だと気づく。ご不浄に行って戻るともう眠くない。カーテンの外はほんの少し青みを帯び朝の気配がもう兆している。相部屋の二人を起こさぬよう扉を開け忍び足でヴェランダへ出て煙草を一本。眼下に暁を前にした琵琶湖が鏡のように凪いで佇む。美しさに思わず息を呑んだ。
そのまま浴衣姿でタオルを携え一階まで降りて離れの露天風呂へ。早朝だが不思議に寒さを感じない。程よい熱さの湯船に手足を思う存分伸ばすと極楽気分。さっきより明るさを増した湖面をぼんやり眺めていたら対岸の山の端からいきなり真紅の朝日が顔を出した。荘厳な一瞬。ユリ・シュルヴィッツの絵本『よあけ』を思い出す。