半ば恒例と化した(?)夜更けのプーランク・ソワレ。今日は少し毛色の違った一枚を。だが演奏そのものは極上だ。
"Francis Poulenc: Chamber Music"
プーランク:
ピアノ、オーボエ、ファゴットのための三重奏曲*
クラリネットとピアノのためのソナタ**
ホルンとピアノのための悲歌***
フルートとピアノのためのソナタ****
ピアノ、フルート、オーボエ、
クラリネット、ファゴット、ホルンのための六重奏曲*****
ピアノ/ジェイムズ・レヴァイン
アンサンブル・ウィーン=ベルリン
■フルート/ヴォルフガング・シュルツ**** *****
■オーボエ/ハンスイェルク・シェレンベルガー* *****
■クラリネット/カール・ライスター** *****
■ホルン/ギュンター・ヘーグナー*** *****
■ファゴット/ミラン・トゥルコヴィチ* *****
1989年4月、ザルツブルク、大学講堂
Deutsche Grammophon 427 639-2 (1989)
全くもって呆れるばかりの巧さに言葉も出ない。レヴァインの指揮台上ならぬ鍵盤上からの周到な誘導のもと、ウィーン・フィルとベルリン・フィルの腕自慢の名手たちがザルツブルクの一堂に集ってプーランクをやる。こんな時代が来るのを誰が予測しただろうか。何? ちっともフランス風ぢゃないだろうって? ところがどっこい、木管の音色こそ独墺の出自は隠せぬものの、プーランクの快活な悲哀は十二分に醸し出されていて、文句のつけようのない秀演なのだ。
いやはや歳はとってみるもんだ、とつくづく思う。陽気で爽快、しばしば能天気ですらあるプーランクの音楽に深い哀しみや諦念が背後から忍び寄る昏い影のように見え隠れすることに漸く気付いた。特に晩年の室内楽群にそれが顕著なのだ。田舎の高校生には判る筈もなかったプーランクのあえかな陰影である。
そういえば、と思い到る。ホルンのための
エレジー(1957)は交通事故死した不世出の名手デニス・ブレインを悼んで作曲されたのだし、透明な美しさの横溢する稀代の名作
フルート・ソナタ(1956~57)は米国の偉大なパトロネス、クーリッジ夫人の思い出に、親密な心情が吐露される
クラリネット・ソナタ(1962)は「六人組」の盟友アルテュール・オネゲルの思い出に、それぞれ捧げられている。すべては喪の音楽でもあったのだ。そして思いがけず早過ぎるもうひとつの死が訪れた。クラリネット・ソナタはプーランクの遺作となってしまったのである。