久しぶりに荻大の旧友たちと逢いに上京。帰国中の
大輔が明日に渡欧してしまうので季節外れだが恒例の「
蕎麦ツアー」を挙行することになった。いつも大晦日に催すのだが、たまたま昨年は取りやめたから今日はその埋め合わせという次第。
集合場所は例年と同じ都営地下鉄の千石駅。定刻の二時を回った頃合には発起人の
大輔、常連の
あきら、
のり、蕎麦ツアーは初参加の
こいぶーも到着。
とはいえ大晦日と違い、どの蕎麦屋も開店している保証はない。祝日なので休業していても不思議でないのである。勇んで出向いてみたものの、案の定お目当ての「
駕籠町藪」が閉まっていて出鼻を挫かれる。致し方ないので五人であてどなく旧白山通りを白山方面にとぼとぼ歩く。春めいた陽射しが肌に心地よい。
幸いなことに東洋大学前の「
藪蔦」に暖簾が出ている。有難や、ここにしようと衆議一決。まずはビールで乾杯し旧交を温める。ほどなく地元在住の
しゅんが寝惚け顔で合流。店内を眺め渡した途端ここは前に来たことのある店だと気づいたが、蕎麦の味は忘れていたのでオーソドックスにせいろを註文。さして期待もしなかったのだが、噛み応えのある黒っぽい蕎麦の風味がなかなか旨い。昨夜から空腹だった小生はかなりの大盛をツルリと平らげた。
少し元気が出たところで席を立ち、本郷通りから東大農学部脇を左折して言問通りへ抜け根津方面を目指す。いつもより足早なのは今日のゲストである
カムラ女史と待ち合わせたからだ。待たせてはならぬ。
弥生坂を急ぎ足で下ると根津駅前交叉点で
カムラ女史が大きく手を振るのが見えた。やっと全員が顔を揃えたところでハタと思案。よく晴れた休日とあってこの界隈は結構な人出なのだ。総勢七名のわれらを迎え入れる蕎麦屋を見つけるのは難しそうだ。さしたる目算もなく不忍通りを上野方向に少し歩いたところに「
新ふじ」という立派な店構えの蕎麦屋を発見、あな嬉しや、ここにも暖簾が掛かっている。
昼はまだだという
カムラ女史が美味そうにせいろを啜るのを横目で見つつ、さっきの蕎麦がまだ消化しきれない男性軍は専ら蕎麦焼酎のお湯割りを呑みがてら、アテで頼んだ板わさ、韮玉、豚キムチに舌鼓。ここも悪くない店だ。話題はどうしても昨今の原発問題や政治混迷に集中。時節柄こうなるのも仕方あるまい。小一時間は居ただろうか、四時から店の休憩だというのでやむなく辞去。
再び不忍通りを歩く。道沿いに「森鷗外生誕百五十年」のバナー(
→これ)が頭上に旗めくのに気づいた。ちっとも知らなんだ、鷗外がドビュッシーやディーリアスと同い年だなんて! ふと大逆事件で被告の弁護側に密かに情報を提供したという鷗外の複雑な心境を想う。ただし酩酊した脳にはそれ以上の詮索はどうにも叶わず、歴史的夢想は呆気なく麗らかな春風のなかに雲散霧消。
少し歩いて動物園裏を過ぎると不忍池に到着。家族連れで賑わう弁天堂界隈をすり抜け、池の周囲をのんびり歩く。周囲の桜樹はまだ咲く気配もない。この調子だと花見は四月中旬になるのではないか。下町資料館脇を過ぎて上野広小路に着く頃にはそろそろ空腹を覚えたし喉も渇いてきた。どこか値頃な居酒屋はないかと捜し歩くが、安価な「さくら水産」がいくら歩いても見つからず(どうやら昨年に閉店になった由)、上野一安いと評判の「金の蔵」は満席で入れない。そもそも休日の夕方に七人の集団が予約なしに居酒屋に入ろうとするのが無謀な企てなのだろう。そろそろ時間切れだという
のりはここで帰宅の途に。
あとの六人はまたぞろ目的なしに広小路界隈を徘徊。
カムラ女史が「アメ横をよく知らないので観てみたい」というので冷やかし気分でそぞろ歩く。確かにここはいつ来ても生き馬の目を抜くような場所だ。乾物類が嘘みたいに安いのにちょっと心惹かれたが、量が半端でないのでグッと堪える。
御徒町駅のガードを潜り線路の東側に出ると、ここも宝飾店や飲食店が犇めきあう賑やかな一郭だ。いよいよ空腹と渇望の念やみ難く、居並ぶ居酒屋のどこが最安かあれこれ思案するうち、今日のツアーはやはり蕎麦で締め括るべしとの意見が大勢を占める。更に上野駅周辺を捜し歩くうち丸井の裏手に老舗「
上野藪」を発見。「創業1892年」の表示に思わず怯むが他に妙案もないのでここに入る。
扉を開けるとほぼ満席の賑わいだ。諦めかけると店員が「二階の座敷でどうか」と云う。是非もない、階段を昇って二階奥の小上がりに。
(まだ書きかけ)