ほとんど名前しか知らず、いかなる経歴の人物かも詳らかでないままに倫敦でこのヴァイオリニストを聴いた。といってもベンジャミン・ブリテンの協奏曲という、これまた馴染の薄い演目だったものだから、集中力の強さは感じたものの、さしたる感想も抱かずに終わった。その後二月に彼は来日もしたらしい。
そういえば拙宅にその彼の面白いアルバムがある。題して「
東が西に出逢う」。
"East Meets West"
シャンカル: Raga Piloo*
ラヴェル: ツィガーヌ**
ファリャ(コハンスキ編): スペイン民謡組曲**
バルトーク(セーケイ編): ルーマニア民俗舞曲** ***
シュニートケ: 組曲1955***
シャンカール:Swara-Kakali*
ヴァイオリン/ダニエル・ホープ
シタール/Gaurav Mazumdar*
タブラ/Asok Chakraborty*
タンプーラ/Gilda Sebastian*
リュテアル**、ピアノ***/ゼバスティアン・クナウアー
2003年11月5、6日、ハンブルク、ロルフ=リーバーマン=スタジオ
Warner Classics 2564 61329-2 (2004)
ここで云う「東」とはラヴィ・シャンカルに代表されるインド、シュニートケの「ユダヤ系ロシア」、それにジプシー音楽を包含する緩やかな「東方」の広がりだろう。
ダニエル・ホープはイェフディ・メニューヒンに可愛がられた教え子だったから、シャンカルとメニューヒンがたびたび共演を重ね、「東と西の融合」を目指した顰みに倣って本アルバムを構想したのはよくわかる。最初と最後に配されたシャンカルの曲はどちらもメニューヒン追悼曲なのだ。
小生にとって嬉しいのはラヴェル「ツィガーヌ」の
リュテアル伴奏版がここで奏されること。リュテアル(luthéal)とは1919年に発明された一種のプリペアード・ピアノで、絃に細工がしてあって、ハンガリー系ジプシーの楽器ツィンバロムによく似た渋い不思議な音がする。新しもの好きなラヴェルは早速これに飛びつき、1924年10月のフランス初演の際わざわざピアノに替えてリュテアルに伴奏させた。
更に驚いたことに本盤ではファリャの「スペイン民謡組曲」やバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」までが珍しいリュテアル伴奏版(そんなのが存在するとは知らなんだ)で奏される。確かに否が応にも「東方的」に響く。これは興味深い聴きものだった。