窓越しに射し込む陽光から春の兆を感じ取つたのだが、ヴェランダへ出てみると外氣は矢張り二月の冷たさだ。静かに在宅してゐたいが家人に急かされ近處の映畫館へ。事情に疎くて斯樣な新作が懸かつてゐるのを迂闊にも氣付かなかつた。
J・エドガー
2011年
ワーナー・ブラザーズ
マルパソ・プロダクション
監督/クリント・イーストウッド
脚本/ダスティン・ランス・ブラック
撮影/トム・スターン
美術/ジェイムズ・J・ムラカミ
衣裳/デボラ・ホッパー
音楽/クリント・イーストウッド
出演/
レオナルド・ディカプリオ
ナオミ・ワッツ
アーミー・ハマー
ジュディ・デンチ
ジョシュ・ルーカス ほか
イーストウッド監督の新作は昨年の震災直前に同じ映畫館で觀た《ヒアアフター》以來だから丁度一年振りになる。臨死體驗や霊能者といふ際どい主題と眞正面から取り組んだかと思ふと、うつて變はつてFBI創設者にして米國政治史の蔭の立役者たるフーヴァー長官の地道な傳記映畫を撮るのだから、監督の藝域と好奇心の幅広さに今更乍ら驚く。八十歳を過ぎて何といふ旺盛果敢な創作力だらう。
FBI長官J・エドガー・フーヴァーと云へば第二次大戦後に全米を揺るがした惡名高き「赤狩り」の首謀者としてマッカーシー上院議員と共に隠れなき存在である。FBIが違法な手段で永年かけて溜め込んだ厖大な情報ファイルがあればこそ、非米活動委員会はあれだけ徹底的な個人攻撃が可能だつたのだ。忌わしい「ならず者の時代」の體現者フーヴァーの生涯を21世紀の今になつて辿らうといふのだからイーストウッドの企圖は一筋繩ではいかない。ネルソン・マンデラを主人公に据へた傑作《インビクタス》とは何から何まで對照的な傳記映畫になるだらう事は未だ観ぬ内から豫測してゐた。ところが物語は思いもよらぬ方向へと展開する。
(未だ書きかけ)