昨夜の淡雪は朝の内はうつすら殘つてゐたが、陽に照らされるや呆氣なく融けて仕舞ひ、影も形も無くなつた。すつきり晴れた穏やかな一日になつたが、空氣は肌を射すやうに冷たい。昨日の疲れからか晝食の後どつと睡魔が襲つて來て三時間も寢てしまつたので一向に眠くならないのはいやはや甚だ困つた事だ。夜更けて今日もひつそりドビュッシーを聽く。
"Debussy/ Duo Crommelynck: Œuvres pour piano à 4 mains"
ドビュッシー:
海
■ 海上の曙から眞晝まで
■ 波の戯れ
■ 風と海との對話
民謡主題に據るスコットランド行進曲
小組曲
■ 小舟にて
■ 行列
■ メヌエット
■ バレエ
六つの古代碑銘
■ 夏の風神パンの加護を祈る爲に
■ 名無き墓の爲に
■ 夜の幸あれかしと願ふ爲に
■ クロタルを奏でる踊り子の爲に
■ エジプト女の爲に
■ 朝の雨に感謝する爲に
洋琴連彈/デュオ・クロムランク (パトリック・クロムランク+桑田妙子)
1985年7月、ハイデルベルク
Claves CD 50-8508 (1987)
ドビュッシーの洋琴連彈曲を集めた重寶な一枚。何れも作曲者自身の手に成る眞正なエディションで、「海」は管絃樂曲の成立以前の原型なのだと知れば興味はいや増す。今日では別人に據る管絃樂版で耳にする機會の多い「小組曲」と「古代碑銘」もこの連彈版こそがオリヂナルなのである。二曲目の「マルシュ・エコセーズ」は莫斯科で刊行された稀少な原典版の樂譜をわざわざ捜し出して演奏するといふ念の入れやうなのだ。
演奏の餘りの完璧さに言葉を失ふ。流石は斯界の第一人者
デュオ・クロムランクである。二人組に「第一人者」は可笑しいが、かうして録音を聽くと御兩人の呼吸が餘りにピツタリ合つてゐて到底二人の演奏とは思へぬ程だ。彼と彼女の關係は正に一心同體だつたのだらう。この夫婦が諍いの末「心中」と呼ぶのも憚られる壯絶な le double suicide を遂げたのも、此の尋常ならざる一心同體ぶりの果てだつた。