未明から時ならぬ豪雨に見舞われた。降り込んだ雨粒でヴェランダもズブ濡れ。近所に買物に出るのも躊躇われるほどだ。倫敦で罹った風邪もまだ完全には癒えていないものの、どうにか布団から起き出してデスクワークに復帰するまでに回復。まだ本調子でないので騙し騙し始動。やるべき作業は山積なのである。
ちょいと骨休めに
Alexander McCall Smith という未知のスコットランド作家の短篇集 "
East Coast stories" を読んでみる。題名にある East Coast とは倫敦とエディンバラを結ぶ鉄道路線「イースト・コースト本線」に因むものらしく、その列車にたまたま乗り合わせた五人の乗客が旅のつれづれに身の上を語り合う…という設定で五つの掌篇が連なっている。
実はこの小説集、書店で買い購めたものではなく、先日のエディンバラ往還の際に乗ったその「イースト・コースト」特急列車内の棚で無料配布されていたのをたまたま見つけ、持ち帰ったもの。表紙絵と挿絵が秀逸なので思わず手に取ってしまったのだ(
→これ)。
五人の身の上話は各人各様。ある青年はうっかり間違った駅で降りてしまった偶然から、その駅のホームで運命の女性と巡り逢うロマンティックな体験を告白し、これからその彼女とパリ旅行に出掛けるのだという("Brief Encounter")。別の男性は根っからの美術好きで、絵画鑑定の実習をしていて、贋作を見抜いて専門家たちを驚かせた体験を語る。17世紀の風景画になんと列車(!)が小さく描かれていた、という途方もない話である("Classical landscape, with train")。
こんな調子で各人が代わる代わる不思議な体験談を披露する、その口調が実にさりげなく無理がないので、読んでいるこちらも惹き込まれて、つい耳を欹て聴き入ってしまう。このあたりに作者
アレグザンダー・マコール・スミスの語り口の妙が窺われる。しかもたいそう平易な英語なのだ。
こういう秀逸な短篇集を作家に書き下ろさせ、乗客の皆に無料で配布してしまう英国の「イースト・コースト」鉄道の太っ腹さに感嘆させられる。しかも、それがさりげなく鉄道路線の広報宣伝になっているというスマートな床しさ。極東のどこかの島国の特急列車ではとてもこうはいくまい。