1月30日。一連の演奏会が漸く一段落したと思ったら、少しばかり気が緩んだのだろう。なんだか喉が痛い。腹具合も宜しくない。いかんいかん、風邪の兆候である。
今日は月曜日。大概の美術館は休みなのだが、テムズ河畔サマセット・ハウスにある「
コートールド・コレクション」は開館していて、しかも二時までは無料だというので出かけてみた。
狭い廻り階段を最上階まで上ると、いきなりゴーギャンの油彩画《
ネヴァーモア》が目に飛び込んでくる。昨日サウスバンクで観た映画『夏の歌』でディーリアス邸の壁に掛かっているのを目にしたばかりなので、その実物と対面するのは実に不思議な縁である。ディーリアスはタヒチからパリに届いた最新作を大枚を叩いて購入し、四半世紀にわたりグレ=シュル=ロワンの自宅に飾って日夜をあかず歎賞した。
それにしてもコートールドのコレクションの質の高さには溜息が出る。マネの最高傑作《フォリー・ベルジェールのバー》も、スーラの《化粧する女》も、セザンヌの《トランプする人々》も、みんなここで観られるのだ。今日は体調が今ひとつなので、凝視せずにさっと通り過ぎたいのだが、そうできないのがこの美術館の凄さである。
ふう、と溜息をつきながらサマセット・ハウスを後にし、ストランド街をトラファルガー広場方面に歩く。空気が肌を刺すように冷たい。早朝からナショナル・ギャラリーでレオナルド展に並んだ人たちはさぞかし凍えただろう。すっかり体が冷え切ったので、道すがらセント・マーティン・イン・ザ・フィールズ教会に駆け込む。折からランチタイム・コンサートが始まるところだ。
St Martin in the Fields
Lunchtime Concert
30 January 2012
13:00-
グリーグ: ヴァイオリン・ソナタ 第三番
ラヴェル: ツィガーヌ
ヴィエニャフスキ: 華麗なるポロネーズ
ヴァイオリン/ラドゥ・ロポタン Radu Ropotan
ピアノ/ダン・マルギネアン Dan Margineanルーマニアから留学中の若手ドゥオというが、すでにプロフェッショナルな腕前。技術的に全く危なげなく、ラヴェルの難曲を易々と弾きこなし喝采を浴びた。こういう有望な演奏家が教会で無料演奏するところに倫敦の音楽水準を垣間見る思いがする。
そのあと教会地下のクリプトの食堂で遅い昼食。いつ来てもここは混み合っている。場所の便利さもあるが、なにより安価でそれなりに美味しいからだ。満腹になったので腹ごなしにナショナル・ギャラリーでイタリア絵画をカラヴァッジョから遡って鑑賞、ティツィアーノ、ベッリーニ、マンテーニャと辿ったあと、最後をピエロ・デッラ・フランチェスカで締め括る心積もりだったのだが、閉室中で観られず。残念。
部屋に戻るともう夕刻近い。今夕は演奏会がないので、シャワーを浴びたら早めに寝てしまおう。背中あたりで悪寒がする。本格的な風邪にならぬといいのだが。