(承前)
小生のディーリアス熱は罹病このかた四十年以上にもなる。もはや宿痾の域に達したと云うべきか。LPはあらかた手に入れて繰り返し聴いた。CD時代になるとぐっとアイテム数が増したので完全収集は難しいが、それでも主要なものは手許にある。そうなるとあとはSP盤ということになろうが、さすがに怖気づいた。そもそも再生装置が家にないのだから、聴きようがないのだ。
それでもSPアルバムを一組だけ架蔵する。たまたま神田神保町で見つけた。
DELIUS:
Concerto for Violin and Orchestra
Albert SAMMONS, violin
and the Liverpool Philharmonic Orchestra
conducted by
Malcolm SARGENT
COLUMBIA Masterworks Set mm-672 (1947)
音が聴けなくともよい。何しろアルバム・カヴァーが驚くほど秀逸なのだ(
→これ)。
永らく茶封筒のような地味な袋に収められていたSP盤(これはLP登場以後の呼び名)も、複数枚がセットになった組物の場合には厚紙製の丈夫な表紙で束ね、この形のものを「アルバム」と称した。米国では1940年代からSPアルバムの表紙(=アルバム・カヴァー)に美麗なイラストレーションをあしらう手法が急速に一般化し、これが1948年に始まるLP時代の「レコード・ジャケット」百花繚乱の嚆矢とされる。このあたりの事情は拙著『12インチのギャラリー』にざっと略述した。
最も個性的だったのは最大手である米コロンビア社のSPアルバムである。クラシカル、ポピュラーの別なく、その殆どすべてのカヴァー・デザインを一手に担当したのが
アレックス・スタインワイス Alex Steinweiss(1917~2011)という傑物である。当時まだ二十代の若さで同社の初代アート・ディレクターに就任した彼は、千数百点に及ぶアルバム・カヴァーを矢継早に手がけた。
このディーリアスのアルバム・カヴァーは数あるスタインワイスの仕事のなかでも秀作の部類に属するもの。城壁に囲まれた長閑な英国風景。川沿いに集う赤い屋根の家々、小舟と石橋と畑。手前には英国国旗が翩翻とはためく…かと思いきや、城壁はヴァイオリンの胴に、旗竿はその弓に見立てられているのである。周囲の余白には曲名と演奏者が考え抜かれた字配りで周到に記される。
(まだ書きかけ)