昨夜のこと家人が藪から棒に「
豊島園がなくなるらしいわよ。さっきTVのニュースが報じていた」と云う。不意を突かれて思わず言葉を失った。一体全体どういうことなのか、朝日新聞の報道を引く。
東京都は、老舗遊園地「としまえん」(東京都練馬区)の土地を買収し、都立公園として再整備をめざす方針を決めた。閉園を前提とした計画となり、今後、としまえんを運営する西武ホールディングス側と交渉するとしている。
都は1957年にとしまえん一帯を「練馬城址公園」として整備する計画を決定。これまで計画は具体化しなかったが、東日本大震災を受けた防災体制を検討する中で、2020年度までに国の事業認可をめざす「優先整備区域」に格上げすることにした。都幹部によると、西武側も都と協議していく意向という。
としまえんは現在も都が指定する避難場所になっているが、都立公園として再整備することで、地域の防災機能を高めることを狙う。対象になるのは約22ヘクタール。今年12月をめどに改定する都の「都市計画公園・緑地の整備方針」に盛り込む。
もう長いこと豊島園を訪れていない。練馬区に住んでいた当時は同じ区内にある最も身近な遊園地として親しんだし、西武電車の利用者として、車内や駅に掲出された広告ポスターの奇抜な惹句をさんざん愉しませてもらった。「
プール冷えてます」とか「
史上最低の遊園地」とかね。
十六年前に千葉に引っ越してからはさすがに縁遠くなり、とんと話題を聞かなかったが、身売り話が出るほど逼迫していたとは知らなかった。今のご時世だもの、遊園地経営はさぞかし難しいことだろう。
豊島園では夏休み中の毎土曜夜八時から三十分間、盛大に花火が打ち上げられた。ほんの一キロ半しか離れていないので、近くの原っぱからよく見えたが、川沿いの道を自転車で少し走ると、ぐんぐん花火が近づいてサイズも音も迫力たっぷり。練馬に暮らす醍醐味のひとつだった。その花火も疾うに廃止されて久しいのだという。
上の報道に拠れば、豊島園を防災拠点とする計画は半世紀前(!)に策定されており、昨今の情勢から俄かに再浮上したものらしい。記事では触れられていないが、恐らく水面下で豊島園側から身売り話についてなんらかの打診があり、それを受けて東京都がこの方向性を正式に打ち出したのであろう。いくら傲岸な知事を戴く自治体でも、他人の土地を召し上げる方針を勝手に発表はすまい。
ところが東京新聞の報道は少々色合いを異にする。
東京都が遊園地「としまえん」(練馬区)の敷地など22ヘクタールを取得し、都立公園として再整備する計画を立てていることが9日、分かった。東日本大震災を受け、防災の観点から避難所確保などのため公園整備を急ぐ必要があると判断した。買収交渉などはこれからで、同園を運営する西武ホールディングス広報部は「話は一切聞いておらず、売却の予定はない」としている。
都は16日に公表する「都市計画公園・緑地の整備方針」の改定案で、10年以内に事業を始める「優先整備区域」に位置付ける。
整備自体はもともと、同園が1926(大正15)年に開園した後の57年に「練馬城址公園」として都市計画決定されていた。建物が少なく、公園整備に適しているとされたためだが、同園は都の指定する避難場所でもあったため、具体的な事業着手は見送られていた。
しかし、西武側が同園の敷地の一部を宅地として売却しだしたことに加え、大震災の発生で恒久的に避難場所に使える用地の確保が課題となり、事業の先送りはできないと判断した。
優先整備区域は、宅地として既に売却された数ヘクタールを除き、同園の敷地とほぼ重なる。改定案はパブリックコメントを経て、12月までに正式決定する。
なんと豊島園サイドは「
話は一切聞いておらず、売却の予定はない」とコメントしているではないか。となると東京都は一方的に買収の方針を打ち出したことになろう。「
西武側も都と協議していく意向」という朝日新聞の報道内容とは大いに食い違う。どっちが正しいのか?
もっとも仮に売却計画が密かに進展中だとしても、豊島園側もおいそれと認めはしないだろうから、現時点で真相は藪の中というところか。
秋になったら久しぶりに訪ねてみよう。今度こそ世界最古の回転木馬「エルドラド」にも乗ってみたい。練馬にまだ豊島園が存続しているうちに。