いや~めでたい、めでたい。何がめでたいかつて? そりやあ云ふ迄も無く、五箇月振りに
ゴールデンバットの生産が再開されたのが慶賀なのだ。五月初めに友人の
おらが君から賣れ殘りの十個入りカートンを讓り受け後生大事に吸つてゐたのだが、それも程無くなくなつて以來、ずつと禁斷症状が続いてゐた。詮方なくエコー、わかば等の別銘柄も試してはみたが、いやはや不味いのなんのつて。
夢にまで見て渇望したそのゴールデンバットが遂に店頭に復活した。昨日たまたま御茶ノ水のコンビニで目にして、待つてましたとばかりカートンで纏め買ひ。しみじみ嬉しい。これでなんとか酷暑を凌いで生き延びられる。
これを壽いでこんな酔狂なディスクをかけてみたい。
"The Art of the Cigar: Huelgas Ensemble"
01. Tobaddo is a dirty weed from "The Bristol tune book" (1876)
02. Como el humo del cigarro
by Juan Blas de Castri (ca.1561-1631)
03. O Metaphysicla tobacco by Michael East (ca.1580-1648)
04. Louange de la Havane
by Carl Ludwig Friedrich Hetsch (1808-1872)
05. De Vuelta Abajo o de Oriente by José Peyro (1702-1768)
06. My last cigar by Charles Wesley (1793-1859)
07. La guajirita de Vuelta Abajo by Pedro Riquet (17th century)
08. Das Zigarrenlied by Augustus Edmonds Tozer (1857-1910)
09. So I have my cigar! by W. Augustus Barrat (1864-1928)
10. Eloge du tabac by H. Lazerges (1817-1887)
11. To a segar by Paul Lebrun (1863-1920)
12. Fumeux fume par fumée by Solage (floruit ca.1400)
from codex Chantilly
13. Open the old cigar-box by Daniel Towner (1850-1919)
14. Tobacco, tobacco, sing sweetly for tobacco
by Tobias Hume (ca.1569-1645)
15. I like cigars beneath the stars by E.C. Walker (1820-1894)
16. Elogio by Anonymus (Spain ca.1520)
パウル・ファン・ネーフェル Paul van Nevel 指揮
ウエルガス・アンサンブル
2010年6月16、17日、ルーヴァン、パリダーンス礼拝堂
Sony-deutsche harmonia mundi 88697771422 (2011)
これはなんとも前代未聞の企てではあるまいか。版元の口上を引く。
中世、ルネサンス音樂の專門家で指揮者のパウル・ファン・ネーヴェルが1970年に結成したヴォーカル・アンサンブル「ウエルガス・アンサンブル」の四十周年紀念録音盤となります。彼等は長い間、古い音樂を專門としてをり、最近バッハの音樂を手掛けました。しかし、このアルバムは彼等にとつて大膽で冒險的なものとなつてゐるのです。1500年代から20世紀の音樂まで幅廣い年代、さらに樣々な國の音樂を演奏していきます。ネーヴェルの膨大な知識が、此處に集約されてゐます。音樂的だけでなく、文學的な要素も取り入れられ、巴里のスモーキング・ルーム、伯林の居酒屋、ウヰクトリア朝のサロン、そして憂鬱、皮肉が取り入れられた煙草に関する作品が選ばれました。
古樂演奏にはとんと疎い小生のやうな者にもこのディスクは愉しめるし心和まされる。コロンブスが傳へて以來、歐洲では脈々と煙草禮讃の音樂が唄われてきたらしい。煙草に因んだ歌は20世紀ポップスや我が歌謡曲の專賣特許では無いらしいのである。考へてみれば蓋し當然だ。
よくぞまあこんなにも澤山の煙草歌曲を蒐めたものだ。「煙草は穢れ草」といきなり反語的に唄ひ出す歌、「苦悶を歡喜に變へ、惱める心をば慰めてくれる」と手放しに賞讃する歌、「煙草、煙草、歌へ甘美に煙草の爲」と詠嘆調になるかと思へば、かのキップリングの詩に據る「古い葉巻函を開けて」のやうに高尚なのもある。喫煙はまさに歐羅巴文化の一部だつたのである。
こんなアンソロジーを企てて聽衆を煙に巻く指揮者ファン・ネーフェルは、察するに大の愛煙家ではないのか。少なくも一度は愛煙家だつたことのある輩に間違ひ無いであらう。カヴァー・デザインも實に凝つてゐて秀逸だ(
→これ)。