ふう、暑いばかりか必要に迫られてフランス語と格闘している。若い頃もっと勉強しておけばよかったと今になって悔んでも後の祭り。必死の形相で辞書と首っ引き。
少し息抜きしたい。フランスから海峡を渡ってイギリスの音楽でも聴こう。とはいうものの作曲されたのは悉くパリ郊外の川沿いの村グレ=シュル=ロワン。ほかならぬ
フレデリック・ディーリアスの楽曲である。いくつかは夏に因んだ涼しげな風情。
"Frederick Delius: Arrangements for
paino 4 hands by Peter Warlock"
ディーリアス(ウォーロック編):
春に郭公の初音を聴いて*
川の夏の夜**
夏の庭園で*
日の出前の歌**
北国のスケッチ*
舞踊狂詩曲 第一番*
舞踊狂詩曲 第二番**
連弾ピアノ/小川典子、キャスリン・ストット
*=小川、**=ストットが高声部を担当2002年6月9~14日、ダンデリード、ギムナジウム
BIS BIS-CD-1347 (2003)
ディーリアスにピアノ独奏曲は殆ど皆無である。彼自身ピアノが得意ではなかったらしく、管弦楽曲やオペラもピアノ・スケッチの段階抜きで作曲したようである。どうしてもピアノ用の楽譜が必要なときは知り合いのフランス人作曲家(若き日のラヴェルやフローラン・シュミット)にわざわざ編曲を依頼していたほどなのだ。
これらのピアノ連弾版もすべてディーリアスに私淑した
ピーター・ウォーロック(本名フィリップ・ヘスルタイン)の手になる。もともとピアニスティックに書かれていない原曲にもかかわらず、連弾編曲がかくも美しく響くのは、半分はディーリアスの絶妙な和声の故だろうが、残り半分はウォーロックの入念な仕事のお陰だろう。
ウォーロックはディーリアスより先に三十六歳で急死(自殺と噂される)してしまうから、これら編曲も当然ながらすべてディーリアスの生前(1912~14、1921年)になされている。この当時オーケストラ曲のピアノ版は家庭演奏用にたいそう好まれていたから、これらの編曲は少なからずディーリアスにも利益を齎したことだろう。
このCDの出現に意表を突かれたディーリアン(ディーリアス好き)は小生だけではあるまい。もちろんすべて世界初録音だ。永く忘れられていた連弾用の稀少な譜面は日本で調達され、一部はサイト「楽しい連弾の部屋」主宰者だった田中一実さん(彼もまた若くして急逝した)から提供された由。
小川嬢とストット嬢のピアノ連弾はこよなく音楽的であるばかりか隅々まで同質性を保っていて甚だ見事。ディーリアスの奥儀に迫った味わい深い演奏である。
このほかウォーロックはディーリアスの管弦楽曲「ブリッグ・フェア」二台ピアノ用編曲も手がけている由(小生は未聴)。更にディーリアスの還暦祝いにはオリジナルの弦楽合奏曲「セレナード」を捧げている。前にも採り上げたが、しみじみ心に沁み入る美しい佳曲である(
→これ)。