夏に聴くという主題からは離れてしまうが、
石川セリというとこのアルバムに触れずに済ませることはできない。1985年のアルバムを最後にもう十年も沈黙していた彼女が全く思いもよらぬ形で甦ったのである。
あれは1995年秋のことだったに違いない。筑紫哲也の「
ニュース23」を観るともなしに観ていたら、いきなり石川セリが
武満徹とともに登場した。この番組のエンディングにセリが唄う武満の「翼」という曲が使われることになり、そのお披露目のための出演だったのである。
武満はこのとき「
自分がこれまで折にふれて書いてきたポップ・ソングを、昔から好きだったセリさんに是非、唄ってほしいと思った」という意味のことを語ったと思う。「へえ、武満徹が石川セリを好んでいたなんて知らなかったなあ」と意外の感に襲われたが、どんなに忙しくとも年間百本以上の映画を観るという武満、日本映画と密接な繋がりを永く保ってきた武満が、《八月の濡れた砂》とそのテーマ曲、そしてその歌い手を知らなかった筈はないよな、と思ったりもした。
隣に坐る武満からそこまで云われて、セリはどんなに嬉しかったことか。久しぶりに目にする彼女は幸福そうな表情を浮かべて、言葉少なに何か一言二言しゃべったろうか。そのあと彼女はその曲「翼」を生で唄ったのだと思う。彼女の佇まい、立居振舞からは、なんともいえない歓びと自信が放射されて眩しいほどだったと記憶する。
セリの唄う武満徹のポップス集はほどなくアルバムとして出た。1995年11月21日のことだ。それからきっかり三箇月後の1996年2月20日、武満は世を去る。あのときブラウン管で目にしたのは末期癌をおして出演した最後の姿だったのだ。
《石川セリ 翼 武満徹ポップ・ソングス》
武満徹:
01. 小さな空
02. 島へ
03. 明日ハ晴レカナ曇リカナ
04. 三月のうた
05. 翼
06. めぐり逢い
07. 死んだ男の残したものは
08. うたうだけ
09. 〇と△の歌
10. 恋のかくれんぼ
11. ワルツ ~《他人の顔》
12. 雪
13. 見えないこども
歌唱/石川セリ
編曲/服部隆之、コシミハル、羽田健太郎、佐藤充彦、小林靖宏
1993年12月~95年9月、東京、日本コロムビア・スタジオ
Denon COCY-78624 (1995)
(まだ聴きかけ)