またしても熱帯夜。今宵も心地よい潮風を吹かせてみよう。八月の夜に海辺で聴くのに最も似つかわしい歌手といえば彼女を措いてほかにあるまい。
《ときどき私は…SERI》
01. Introduction~朝焼けが消える前に
02. 霧の桟橋
03. ときどき私は…
04. 虹のひと部屋
05. なんとなく…
06. さよならの季節
07. ひとり芝居
08. SEXY
09. TABACOはやめるわ
10. 優しい関係
11. フワフワ・WOW・WOW
12. 遠い海の記憶*
歌唱/石川セリ
1974年7月頃*、1975年8~10月、
東京/音響ハウス、メディアサウンド・スタジオ、日本フォノグラム・スタジオ
日本フォノグラム PHCL-8047 (1976/ 1994)
アルバム全曲を聴き通すのは聊かしんどい。当時としては最先端のソングライター、アレンジャー、スタジオ・ミュージシャンを総動員し、いわば叡智を結集させて制作された筈なのに、今こうして耳を傾けると楽曲の出来がひどく不揃いだし、時の試練に耐えきれず、凡庸さに耳を覆いたくなるアレンジもある。
それにしても真夏、海とくればどうしても
石川セリの登場となる。これはもうデビュー曲だった映画《八月の濡れた砂》(1971)の同名主題歌による刷り込みというほかないが、煌めく陽光の下での倦怠をかくもまざまざと体現した歌声はまたとないのも事実なのだ。「あたしの海を まっ赤に染めて/夕陽が血潮を 流しているの/あの夏の光と影は どこへ行ってしまったの」…。
これに続く映画挿入歌「海は女の涙」(《哀愁のサーキット》1972)もまた、そうした印象を倍加させたのだと思う。「涙の中に哀しみを見ない/涙は歌 私の愛の歌だから/心の傷を街へ残し一人/私は海へ来る」…。
そして翌1973年のNHKの連続TVドラマ《つぶやき岩の秘密》主題歌がくる。前作と同じ樋口康雄の作曲になる稀代の名作「遠い海の記憶」(この題名は1974年にシングル盤として再録音された際に附いた)がそれだ。「いつか 思い出すだろう/おとなに なった時に/あのかがやく あおい海と/通りすぎた つめたい風と」…。
つくづく惜しまれるのはデビュー・アルバム「パセリと野の花」を出したあとセリは暫く活動休止が続き、上に掲げた第二作まで四年もの間隙があったこと。もしもこの間に樋口康雄の作曲とプロデュースでセカンド・アルバムが出ていれば、セリ本来の「海を見つめる女」としての資質がもっと前面に打ち出されたに違いない──とまあ、これは勝手な反実仮想なのだが。
アルバム「ときどき私は…」を初めて耳にしたとき、鳴かず飛ばずだった彼女の再出発を心から寿ぎつつも、なにやらファッション・モデルよろしく次々違った服に着替えてみせる姿を目にしたような虚しさを禁じ得なかった。こういうお仕着せの曲だったら、ほかの歌手が唄ってもいいではないか。そんな埒のない想いに駆られるほどに、石川セリはかけがえのない存在としての可能性を秘めていたのだ。
だからやっぱりこれを聴こう。
《SERI sings PICO ~パセリと野の花+13》
01. 野の花は野の花
02. あて名のない手紙
03. 鳥が逃げたわ
04. 天使は朝日に笛を吹く
05. 小さな日曜日
06. デイ・ドリーム
07. 村の娘でいたかった
08. 私の宝物
09. 聞いてちょうだい
10. あなたに夢中よ
11. GOOD MUSIC
12. 八月の濡れた砂
13. 遠い海の記憶
14. 海は女の涙
15. フワフワ・WOW・WOW
歌唱/石川セリ
1971、72、74、75年、東京/モウリスタジオ ほか
ウルトラ・ヴァイヴ CDSOL 1070 (2003)
(まだ聴きかけ)