今夜も寝つけない蒸し暑さに苦しめられる。夜半に汗だくで目が覚める。窓を開け放つが風はそよとも吹かない。ここは海の傍だというのに。想像の世界の海よ、浜風を吹き募らせ、潮騒の音を響かせよ。
"het Residentie Orkest: De Zee"
グラズノーフ:
幻想曲「海 Море」
エルガー:
歌曲集「海の絵 Sea Pictures」*
ドビュッシー:
三つの交響的習作「海 La mer」
エヴゲニー・スヴェトラーノフ指揮
ハーグ・レジデンティ管弦楽団
メゾソプラノ/ヤルト・ファン・ネス*
1993年11月10、11日、デン・ハーク、アントン・フィリップス会堂(実況)
het Residentie Orkest RO 94-1 (1994)
ずばり "De Zee"──オランダ語で「海」と題されたアルバム。海に因んだ楽曲ばかり、それも露・英・仏から一曲ずつ選んで、作曲年代順(1889、1899、1905)に並べたもの。筋の通ったコンセプトだが、それまでありそうでなかった選曲だ。しかもこれが丸ごと一夜の演奏会の曲目そのままなのだという。スヴェトラーノフはなかなか味な真似をするではないか。
しかも彼はこれに先立ってモスクワでも同じような演奏会を催している(エルガーに代えてチュルリョーニスの交響詩「海」が取り上げられた)。一夜の演目に通底したテーマ性をもたせる趣向は、ベルリン・フィル常任時代のクラウディオ・アッバードや、東京都響での若杉弘のコンセプト性の高い企てが夙に知られていようが、負けず劣らずスヴェトラーノフも知恵者だったことがわかる。
加えて彼は
グラズノーフについてはほぼすべての管弦楽曲を録音したほどの権威だったし、
エルガーに対しても「ゲロンティアスの夢」をソ連初演するまでに傾倒し、歌曲集「海の絵」もモスクワでの実況録音(なんとロシア語歌唱!)が残されている。
ドビュッシーの「海」は明らかに彼のロシア的感性とは背馳した音楽の筈だが、当人はいたく共感したらしく、各国のオーケストラとの共演録音が残る。
そういう次第で、この曲目編成は一時の思い付きではなく、スヴェトラーノフの長く豊富なキャリアのなかで時間をかけて育まれた、指揮者人生の集大成的な一夜だったに違いないと察しられるのである。
オランダのオーケストラへの客演ということで、CDカヴァー画もこう(ちょっと小さいけど
→これ)。なんと
モンドリアンの絵(1912)なのだ。いいね、渋いね。
で、海風や潮騒はどうだったか。
もちろん存分に感じられましたとも。これでどうにか眠れそう。そういえばエルガーの歌曲集の一曲目は「海の子守唄 Sea Slumber Song」と題されていましたっけ。