所用で上京して帰宅途中いきなり腹痛に襲われた。いやはや辛いのなんの。帰宅してからも横になって呻いていた。滅多にないこと故われながら驚く。原因はさっぱり思い当たらない。
暫く安静にしていたらどうやら治まったが心配なので今夜はそのまま早めに寝床へ。昨日ポストに届いていた月刊誌 "BBC Music" を開封して斜め読み。
本号のカヴァー・ストーリーは
マルタ・アルヘリッチ。この六月で満七十歳を迎えるのだという。初来日時に芳紀二十八の彼女を間近に見聞した者としては、なんとも言葉を失うばかりである。光陰矢の如しとはこのことだ。少年易老學難成。
愉しみにしていた六頁にわたるインタヴューには肩透かしを喰らう。耳新しい知見がまるでなく、先刻承知の情報をただなぞるだけ。アルヘリッチに纏わる最大の謎であり、これまでも何度となく問われた質問「独奏会はもうやらないのですか?」にも、彼女は「
わからないワ。でももしやるとしたら、誰にも告げずにそうする」と破顔一笑し、「
誰もがそれを期待して聴きに来るというのは嫌。どうにも神経質になってしまうし、そういうのは好みぢゃない」。要するに、やりたくないということだ。いやはや、同時代を生きながら彼女のリサイタルは金輪際もう聴けないだろう。
附録CDは嬉しい聴きものだ。ここ数年来の
バレエ・リュス百年の気運に沿った企てなのであろう。こんな二曲が組み合わされる。
ストラヴィンスキー:
バレエ音楽『火の鳥』*
バラキレフ:
交響詩「タマーラ」**
イラン・ヴォルコフ指揮
BBCスコットランド交響楽団
ティエリー・フィッシャー指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団
2006年1月19日、グラズゴー、シティ・ホールズ(実況)*
2009年1月13日、カーディフ・ベイ、BBCホディノット・ホール*
BBC Music MM 332 (2011)
前者は1910年、後者は1912年のバレエ・リュス公演でそれぞれお披露目された新作バレエだった。本当は今年百周年を迎える『ペトルーシュカ』こそが相応しいのだが、まあ贅沢は言うまい。
実況演奏なので万全とはいえないが、この『火の鳥』はなかなかの出来映え。一般には組曲版(1911/1919/1945年版がある)が人口に膾炙しているが、このバレエを舞台で観たことのある者にとって全曲版の魅力は何物にも代えがたい臨場感がある。永くスコットランドの楽団の首席指揮者を務めただけあって
ヴォルコフの統率は行き届いている。
『タマーラ』は舞台を実見したことがないので偉そうなことは云えないが、瑞々しく神経の行き届いた
フィッシャーの指揮ぶりは「古色蒼然たる」露西亜民族主義に新風を吹き込んでいる趣。好演である。