ふと立ち寄った百円ショップで何か音の出るタンバリンか鈴のようなものを物色するが見つからず、結局プラスチック製の赤いメガホンを購入。その足で渋谷へ向かう。まだ時間があるので途中の東京駅構内で書店にちょっと寄り道。
細野晴臣が表紙になった『ミュージック・マガジン』誌をレジに差し出す。
一時半。集合場所であるNHK前で先着の
大輔と合流。暫くすると
荒川も現れた。大輔から
カムラアツコさんを紹介される。倫敦で活躍するパンク・ヴォーカリストだそうで、彼女も今日の脱原発デモに参加するのだという。二時から主催者の挨拶に続き、福島瑞穂や藤波心らが壇上に立つ。続いて参加ミュージシャンたちのミニ・ライヴ。集合場所が細長いので、どの位の人数が集まったのかは判然としない。芳しくない空模様のせいか、先月の高円寺でのデモには及ばない気がする。
ポツポツ降り出した小雨のなかを三時に出発。代々木の競技場を横目に見て原宿駅脇を抜け、表参道から青山通りへとデモ行進。今日も前回と同様、チンドン装束に身を固めたバンド「
ジンタらムータ」の面々のあとに付いて歩くことにする。ジンタに合わせて行進すれば足取りも軽く、賑やかで愉しいからだ。
それにしても若い連中が圧倒的に多いのは心強い。初参加の人が多いらしく、傍目にはさぞかし漫然としたのんびり集団に見えるだろうが、それがこの「原発やめろ」デモの特色なのである。組織化された整然たる行進よりもずっと好感がもてる。ただし、舗道を行きかう人の反応は概ね無関心で冷ややか。前回の高円寺に比べ、この界隈は遙かによそよそしい感じ。渋谷駅前のスクランブル交差点附近で、舗道を歩く友人
おらが君とばったり遭遇し挨拶する。あとで吞み会に合流するとのこと。
たっぷり二時間かけ集合地点に戻ったのが五時頃。持参したメガホンで声を限りに叫んだので咽喉が嗄れた。デモは警官隊の規制でいくつもの小グループに分断されてしまい、後続集団はまだ戻ってこないが、草臥れたし空腹も覚えたので早々に辞去し、東急本店前の居酒屋「
ひものや」へと移動。ここで先の
おらが、
宮崎両君も合流。飛び入りのカムラさんを加え総勢六名でささやかに宴を催す。
いつもの顔ぶれがいつものように集まって緩く談笑…の筈が、新顔の女性の登場でがらり様相が一変した。気さくな姐御然としたカムラさんは筋金入りの表現者。女性ばかりのパンク・バンドの草分け「水玉消防団」でヴォーカルを務めたあと単身で渡英し、伝説的な「フランク・チキンズ」に加わった。その後は永らく倫敦で活躍したのち、故あって二年前に帰国。今でも求められてステージに立つ機会があるそうだ。そんな凄い女性と巡り合ったきっかけは同じく倫敦在住で大輔と親しいKOKO姐さん。あの大姐御からの紹介なのだという。波瀾万丈の体験談に目を瞠る。
同世代が集まると高齢の親の世話の話題になる。今日も例外ではなかった。どの体験も身につまされる。それどころか明日はわが身。老いはもうすぐそこなのだ。
嬉しかったのは着座するなり
おらが君から差し出された
ゴールデンバットのカートン。わが窮状を見かねて世田谷界隈で買い求めてくれた由。有り難や、持つべきは良き友なり。三十年ぶりに煙草を買ったのだそうだ。
三時間ほどして退出。歩き疲れた体にしたたか酔いが回った。帰りの車中で読む『ミュージック・マガジン』にはどの記事も3・11以後の刻印がまざまざ。細野さんが「今後を考えるとこの国に危機感を持ってしまう」「原発はいらない。耐乏生活のほうが楽だね」とぼそり述懐。本当にそうだ。