一昨日にひき続きBBCラジオ3をウェブ経由で聴く。実は同じ番組にはまだ続きがあって、余白に埋め草(?)として
アンジェラ・ヒューイットの弾くラヴェルの「高雅で感傷的な円舞曲」が収まっている。恐らくCD全集からの演奏なのだろうが、頗る繊細かつ丁寧。頻繁なテンポの緩急もこの曲には相応しいかもしれない。
…さあこのあたりで切り上げようかと思ったら、
ゲルギエフ&LSOの実況が控えている。何でも一月に実況中継した際に不具合があったらしく再放送するのだという。
2011年1月18日
バービカン・コンサート・ホール
ワレリー・ゲルギエフ指揮
ロンドン交響楽団
チャイコフスキー:
■交響曲 第一番「冬の夢 Зимние грезы」
これは懐かしい曲。かつてマイケル・ティルソン・トマスやスヴェトラーノフのLP(両者はまるで別物だったが)を擦り切れる程に聴いた。こうして耳にするのは何十年ぶりだろうか。ゲルギエフにはまだ正規盤がないのでこの実況演奏は貴重である。
弦や木管の仄かな明滅が美しい。この交響曲の若やいだ抒情味が最大限に引き出された好演である。ゲルギエフは(しばしば誤解されるように)決して力だけで押し切る指揮者ではない。この実演もその証左といえよう。終楽章も決して空騒ぎでは終わらない。これは会心の演奏だろう。いずれCDで聴けるのではなかろうか。
とはいえ春の盛りに厳冬の音楽はどうにも不似合い。なので続けて別プログラムを。"Afternoon on 3" なる番組から聴く(4月25日放送分)。
ボウエン:
■交響曲 第一番 ト長調
アンドルー・デイヴィス指揮
BBCフィルハーモニック
マーラー:
■子供の死の歌
メゾソプラノ/ジェイン・アーウィン
ティエリー・フィッシャー指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団 (実況)
シベリウス:
■交響曲 第二番
ヤク・ファン・ステーン指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団 (実況)
不思議な取り合わせの三曲だが同時代の所産なのだという。今年歿後五十年という英国の
ヨーク・ボウエン York Bowen の第一交響曲は1902年、マーラーの歌曲集は1901~04年、シベリウスの「第二」は1901年。成程そういう趣向か。
ボウエンは世界初録音CDだそうで、当然ながら初めて耳にする。十八歳の若書きと信じられぬ練達の手腕に吃驚。なんとなくグラズノーフかラフマニノフの交響作品を連想させる。ロマンティックで甘美だが手堅い書法がそう思わせるのだ。彼が「英国のラフマニノフ」と綽名されたのも宜なる哉。
次の「子供の死の歌」はBBCオリジナルの実況音源。抑制の利いた精妙な歌唱。ティエリー・フィッシャーの丹念な仕事ぶりが光る名演である。
続くシベリウスは生理的に大の苦手。そのなかで「第二」はまあ我慢できる。
このあと英国音楽を一曲挟んで、ロシア音楽特集へと突入。
エルガー:
■戴冠行進曲
アンドルー・デイヴィス指揮
BBCフィルハーモニック (実況)
グリンカ:
■歌劇『皇帝に捧げし命』序曲 (実況)
ミハイル・アグレスト指揮
BBCスコティッシュ交響楽団 (実況)
ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編):
■モスクワ川の夜明け ~歌劇『ホヴァンシチナ』
アレクサンドル・チトフ指揮
BBCスコティッシュ交響楽団 (実況)
ショスタコーヴィチ:
■カンタータ「ステパン・ラージンの処刑」
バス/アレクサンドル・キセレフ
ワシリー・ペトレンコ指揮
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団・合唱団 (実況)
「
ステパン・ラージンの処刑」が圧倒的に素晴らしい。時期的にも、バス独唱と合唱を伴う編成も、エフトシェンコ詩に附曲したのも、第十三交響曲の弟分というか、そこから派生した別楽章といった趣。いいなあ円熟期の昂然たるショスタコーヴィチ。
ブリテン(マシューズ編):
■子守唄のまじない
メゾソプラノ/セイラ・コノリー
エドワード・ガードナー指揮
BBC交響楽団
ブリテンの魅惑的な歌曲集 "A Charm of Lullabies" の伴奏ピアノを編曲の名手コリン・マシューズが1990年に小編成管弦楽用に改めたもの。こんな版が存在するのを初めて知って聴く。セイラ・コノリー(「サラ」でなく「セイラ」とアナウンス)の卓越した表現に唸る。なんと玄妙な音楽なのだろう。その作曲家とショスタコーヴィチとが国境を越えて肝胆相照らす親友同士だったというのだから20世紀は面白い。この演奏はCD新譜である由。必聴である。
ふと気づくと四時間ぶっ続けでBBCを聴いてしまった。ウェブラジオ、恐るべし。夢中でFMラジオに耳を傾けた十代の頃に戻ったみたいな気分。