どさくさに紛れて何を仕出かすかわからない。「非常時」の錦の御旗を掲げることで、どんなに危うく際どい決定がなされようとしているのか。注視する必要がある。
まず「毎日新聞」の東京版朝刊から(紙面では見落としそうな小さな扱い)。
東日本大震災:食品・水、放射性物質の規制値緩和へ:
食品や飲料水に含まれる放射性物質について、内閣府の食品安全委員会は25日、暫定規制値の根拠となっている健康への安全性の許容範囲を広げる方針を固めた。これを受け、厚生労働省は現在より緩やかな規制値を策定する見通し。暫定規制値は厚労省が17日に策定。原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を用い、水や食品から1年間に摂取するヨウ素を50ミリシーベルト以下、セシウムを5ミリシーベルト以下としている。だがその後、福島県内の原乳やホウレンソウなどから暫定値を上回るヨウ素やセシウムが相次ぎ検出され、厚労省は20日、同委員会に暫定規制値が妥当かの審議を諮問した。
この日の委員会では「少なくとも50~100ミリシーベルト以下なら健康への悪影響はない」との意見が相次ぎ、暫定規制値が厳し過ぎるとの認識で一致した。
次いで「日本経済新聞」の朝刊。
放射性物質、食品・水の規制値緩和:
内閣府の食品安全委員会(小泉直子委員長)は25日、野菜などの食品や飲料水を通じた放射性物質摂取の規制基準について国際基準を参考に緩和する方向で検討に入った。厚生労働省が定めた暫定規制値は人体への影響について年5ミリシーベルトを超えないことを基準としたが、同10ミリシーベルト以上に緩和する考え。来週中に厚労省に答申、同省は暫定規制値の見直しを迫られる。
国際放射線防護委員会(ICRP)は1984年、原子力災害発生時の食品の規制基準として、事故後最初の1年間の放射線量を全身で5~50ミリシーベルト、個別の臓器で50~500ミリシーベルトと勧告。92年には基準を全身で同10ミリシーベルト以上に緩和した。
国際基準自体が揺れ動いているようなので即断は難しいが、いざというときに基準数値を動かし、規制を緩和するという流れには警戒せざるをえない。「科学的妥当性」とは別の力が強くはたらいていると想像されるからである。それにしても、これまでわが
「食品衛生法」には放射能についての基準が示されていなかったという事実には、驚きや落胆を通り越して、空恐ろしさすら感じられる。
蔓延する「原発は安全」プロパガンダに毒され、危機管理を怠っていたニッポン国とニッポン国民の愚かしさを思い知らされた。仮に百歩譲って、原発が地震や津波に備えが万全であると仮定しても、飛行機事故やテロ、他国のミサイル攻撃など、放射能拡散の危険は常につきまとう。あるいは何もかも「想定外」だというのか。
最後に「朝日新聞」22日朝刊の社説を引く。
放射能と食品―監視と説明を徹底せよ:
福島第一原子力発電所の事故で、食品の安全に対する不安が高まった。牛乳やホウレンソウなど周辺でつくられる農産物が放射性物質に汚染されていることがわかったのだ。
福島県などは原発周辺の農産物出荷を自粛するよう農協や生産者に要請した。これに続き、政府は食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が見つかった農産物について、出荷制限の指示を産地の県知事に出した。
政府は、今の段階では出荷制限された農産物を食べたとしても、ただちに健康に害を及ぼすものではないとし、冷静な対応を呼びかけている。 食べ物の汚染は、消費者の間に過剰な不安を増幅しやすい。関東圏のスーパーなどでは、すでに買い控えの動きも起きている。一定の基準を超えた農産物の出荷を止めることで、それ以外の農産物が安全であることを示す効果があると言えるだろう。
だが、食品衛生法に放射能についての基準はなかった。今回は、原子力安全委員会が2000年に示した指標を暫定規制値として利用せざるを得なかった。厚生労働省が食品安全委員会に食品としての指標値づくりを諮問したのは20日で、対応は、まさに泥縄といわざるを得ない。 食品安全委は、責任ある説明ができる基準づくりを急いでほしい。
いま大切なことは、国民の健康を守り、不安を抑え、風評による被害で農家をさらに苦しめないようにすることだ。政府の責任は重い。 それにはまず、農作物の監視を強め、汚染状況を早く正確に把握することだ。データは包み隠さず開示を徹底し、政府の姿勢に疑念を抱かれないようにすべきである。 汚染データとその対策を、消費者にも生産者にもきちんと説明することが求められる。
情報発信に当たっては、国民が納得できるような根拠を示し、ていねいに説明しなければならない。危険性の伝え方を研究している専門家の知恵も大いに借りるべきだ。 健康に害がないといっても、放射性物質の種類によって影響は異なるので、詳しい説明が必要だろう。
農産物を汚染しているのは、放射性のヨウ素やセシウムなどだ。いったん体内に入ると、体内で放射線を出し続けるのでやっかいだ。 放射線は遺伝子を傷つけ、一定量を超すとがんになる危険が高まる。その傷が身体の修復機能をすり抜けてがんになるとしても何年もかかるので、若い人ほど注意が必要とされる。
汚染が見つかった産地でも、作物によっては汚染されていないものも多い。政府は、そんな情報も積極的に発信してほしい。 私たちも、冷静に行動したい。