昨日は久しぶりにお茶の水に出向いた。たまたま京都からロシア児童文化研究者の
田中友子さんが上京されたので、喫茶店で四方山話に興じたのである。彼女はこのところずっとロシア絵本の通史の執筆にかかりきり、呻吟の末やっと脱稿したばかりで些か虚脱状態なのだという。
彼女が所属する「
カスチョールの会」はロシア児童文学・文化の研究・紹介を志す団体で、今年で結成二十年になる。小生は2004年春に芦屋市立美術博物館で「幻のロシア絵本 1920~30年代」展を催した際、観にきて下さった彼女や彼女の母上で同会主宰者の田中泰子さんの知遇を得た。その後も京都や東京で何度もお目にかかった。ロシア語に不案内な小生にとっては心強い指南役のひとりである。
数日前に彼女から「カスチョールの会」刊行の『
カスチョール』と『
アグネブーシカ』のそれぞれ最新号をご恵贈いただいていた。
前者(二十八号)は「イワンのばか」と「せむしの子馬」についての力の入った特集が面白そうだが、なにぶん大部なうえ多岐にわたるので未読。後者(第六号)は1930年にレニングラードで出た児童雑誌『
まひわ(Чиж)』創刊号を丸ごと翻訳・覆刻するという大胆な企てが光っている。巻頭のベルゴーリツ文・パホーモフ絵の読み物「マーニカの子守り」が実にいいし、マルシャークとハルムスが共作(!)したという詩「陽気なマヒワたち」が日本語で読めるのが何より嬉しい。
『アグネブーシカ』誌は前々号で同時期の『
はりねずみ(Ёж)』誌の創刊号も覆刻しており、前号ではこれらの編集にも深く係わった「オベリウ」派の詩人
ダニイル・ハルムスを特集している。ちょっと信じられない程に果敢な試みが続いている。この時期のロシア絵本の隆盛を下支えしたこれらの児童雑誌の研究が重要であるのは言うを俟たない。「カスチョールの会」の努力に満腔の謝意を捧げたい。
小生の手元には戦前の雑誌はごく僅かしかない。"Ёж" が九冊、"Чиж" が一冊、それにモスクワで出た "Искорка" が三冊。そんなところだ。それらも持参してお目にかけたのだが、正直なところ宝の持ち腐れで、ただ眺めるだけしか能のないわが身を恥じるばかりである。
最終の新幹線で帰京されるという田中さんと東京駅まで同道してお別れした。