在宅していても埒が明かないので渋谷まで出掛け、連載原稿のテーマ探し。駅周辺を徘徊しながら暫し思案。やはりこれで行こうか。そうと決まれば今日の用事はこれにて終了。
織るような年末の人波に気押され、このまま帰ってしまおうかと思ったが、折角なのでタワー・レコードまで足を延ばし、月刊 "BBC Music" の最新号を手に取り、レジへ進もうとして、書棚に平積みされた新刊にふと目を留めた。
吉田秀和
永遠の故郷 夕映
集英社
2011
2008年から年毎に一冊ずつ刊行されてきた吉田さんの『
永遠の故郷』全四巻が完結した。めでたいことだ。そして驚くべきことだ。「あとがき」を引こうか。
書きはじめた時、ごく大雑把に全体の骨組の構想はあったけれど、私の健康が果して終りまで保(も)つか自信がなかった。しかし今、ついに目標の港に漕ぎつけるところまで来て、ホッとしているところです。
なにしろ書き進める間に吉田さんは九十三歳から九十七歳になられた。このご高齢にして、この文章の明晰さ。昔はあったスノビッシュな気取りが消え、冴えわたった透明な結晶体のような達意の名文である。
全十二章のうち七章までがシューベルト。永年に及ぶ鍾愛の歌曲アンソロジーといった趣のエッセイ集だから、シューベルトで締め括られるのはむしろ当然だろうが、この作曲家を大の苦手とする小生にはちょっと辛い。でも読まなければ。
実は大半の文章を月刊誌『すばる』初出時に読んでいるのだが、改めて通読しようと思う。いやむしろ、しみじみ味読したい。