まるで気づかなかったのだが、渋谷道玄坂の
ヤマハ渋谷店が昨日(12月26日)をもって閉店してしまった由。東京新聞の記事から引く。
東京・渋谷で、四十四年の歴史を刻む「ヤマハ渋谷店」が二十六日、閉店する。ロックやポップス向けの大規模楽器店のさきがけで、閉店を惜しむ著名ミュージシャンらが集まった「さよならコンサート」も企画されている。
ヤマハ渋谷店は、世界最大の楽器メーカーであるヤマハの直営店として一九六六年、渋谷駅近くの道玄坂に開店した。クラシックの殿堂とされる銀座店に対し、エレキギターなどの電気楽器を中心にそろえ、ロックを広めることに貢献してきたが「渋谷にも楽器店が増え、楽器の普及や市場構築といった役割を終えた」(ヤマハ広報部)と今年八月、閉店が公表された。[…]
[さよならコンサートの]
発起人の一人で、ロックバンド「ムーンライダーズ」元メンバーの編曲家椎名和夫さん(58)は、「初めてエレキギターを買ったのが二十歳になる前、一九七〇年代初頭のヤマハ渋谷店だった」と振り返る。「店の人から楽器の情報を教えてもらったり、店を通じた交流で音楽家としての仕事を得たり。音楽の中心地の渋谷で、一つの拠点がなくなることに衝撃を受けたが、同時に(CD店の)HMV渋谷の閉店など音楽業界をめぐる厳しい現状について、あらためて考える契機となった」と語る。
同じく発起人の一人、日本のフュージョンバンドの代表的存在「カシオペア」の向谷実さん(54)は「コンサートで音楽の素晴らしさを伝え、業界の新たな出発点にしたい」と編曲などの準備に懸命だ。
ヤマハ渋谷店の営業は、二十六日午後七時まで。「さよならヤマハ渋谷店コンサート」は来年一月十九日に「SHIBUYA-AX」(渋谷区)で。午後七時開演。全席指定六千円。知らなかったなあ。もうここ十年ほど足が遠のいてしまっていたが、1970年代初頭には大学からの帰途ちょいちょい寄り道していたし、70年代半ばからは店頭ライヴも始まって、それにも何度か遭遇した。
朧げな記憶で申し訳ないが、
大瀧詠一のセカンド・アルバム『
Niagara Moon』が発売されたときも、この店でお披露目があり、その場でLPを購入した記憶がある。ちょっと手元のファイルを調べたら、その告知チラシが見つかったので書き写しておこう。1975年から三十五年を経て、これも歴史資料かもしれない。
♪しぶや・ヤマハ♪
レコードキャンペーン
Jun. 8 (日)
2:00 俄(にわか)
*今までのフォークの概念を打ち破るハードなサウンドでせまります
2:45 大滝詠一
*はっぴいえんど解散後の長い沈黙を破って、待望のソロアルバムが
ナイアガラより発売になります
Jun. 22 (日)
2:00 田舎芝居
*京都で活躍中のジャグバンド ついにキャニオンよりデビュー!
1Fヤングステージにて ミニコンサート&サイン即売会をします
(変更する場合もありますのでご了承下さい) レコード係
♡お問合わせは… 463・42XX (内2651) なかむら まで手書きの粗末な湿式コピー(紫色に感光)なのが如何にも時代を感じさせる。
この日の記憶はもうすっかり薄れてしまっているが、初めて生身の大瀧詠一に接したこと、当意即妙のトークは聴けたものの、生演奏はなかったことだけは憶えている。その証拠に、上記のチラシの大瀧の条にはボールペンでわざわざ「生演奏なし」と加筆されている。
また同じ日ではなかったが、これに前後してヤマハ渋谷店の楽譜の棚で、当時既に探しにくかった『
CITY はっぴいえんど全曲楽譜集』(1973)を見つけたのも忘れがたい思い出だ。
矢吹申彦の表紙イラストが瑞々しく、アート・ディレクションの隅々まで行き届いた秀逸な一冊である(
→これ)。今や稀覯本といえるかもしれない。
記事にもあるように渋谷ではこの夏に大型CDショップHMVも閉店した。「音楽の街」渋谷にしてこの体たらく。全くもって悲しい限りである。時代は変わった。