ようやく咽喉の痛みもあらかた消えた。かれこれ二週間も苦しめられたことになる。入れ替わるように今は家人が咳をしている。風邪にやられたようだ。いやはや。
連載原稿の下調べのため近所の図書館まで赴く。十冊まで借り出せるというので、目的とはまるで関係ない本まで抱えてきた。そのうちの一冊、なんの気なしにふと手に取った一冊がたいそう面白い。
山下武
人の読まない本を読む 赤耀館読書漫録
本の友社
2005
名うての古書通として鳴らした著者の蒐書・読書録。標題にあるとおり、誰もが顧みない(が読むに値する)古書に関する小エッセイを百篇以上も集めたもの。
タキトゥス、サッケッティ、ギャスケル夫人、ホール・ケイン、エドガー・ウォーレスなど古今の翻訳文学を逍遥し、探偵小説から新聞記者の手記、さらに無名兵士の捕虜記まで、とにかく守備範囲の広いことに驚かされる。六十年以上に及ぶ筋金入りの探書・読書体験に裏打ちされた蘊蓄には底知れぬ深みがあり、凡百の古本ライターの顔色をなからしめるに充分だ。古書について語るなら、こうぢゃなくちゃね。
おっといけない、本筋の読書に取り掛かれねばならぬ。