まだラヴェル熱が冷めずにいる。原点に立ち戻って同時代の演奏に耳を傾けてみるのも一興だろう。たいそう重宝するディスクがあるのだ。
"Ravel: Les six dernières compositions (1928-34)"
モーリス・ラヴェル:
ボレロ (1928)
ピエロ・コッポラ指揮 管弦楽団
1930年1月8日、パリ、プレイエル楽堂(作曲家立ち会い)
古風なメヌエット (1929)
ピエロ・コッポラ指揮 管弦楽団
1930年1月、パリ、プレイエル楽堂
左手のためのピアノ協奏曲 (1929~30)
ピアノ/アルフレッド・コルトー
シャルル・ミュンシュ指揮 パリ音楽院管弦楽団
1939年5月12日、パリ
ピアノ協奏曲 ト長調 (1929~30)
ピアノ/マルグリット・ロン
ペドロ・デ・フレイタス・ブランコ指揮 管弦楽団
1932年4月、パリ、アルベール・スタジオ(作曲家立ち会い)
ドゥルシネア姫に懸想するドン・キホーテ (1934)
ロンサールの魂に寄せて (1934)
バリトン/マルシアル・サンゲール
ピエロ・コッポラ指揮 管弦楽団
1934年11月20日、パリ、ショパン楽堂(作曲家立ち会い)
EMI 5 65499 2 (1995)
晩年の六作品の史上初録音がこうして居ながらに聴けてしまう恩恵は計り知れない。そう承知しながらも、なんというか、奇妙な違和感は否めない。多くはラヴェル自らが立ち会って監修したオタンティックな演奏であるはずなのに、今の耳からすると長閑すぎて精密さに甚だしく欠ける。これで果たして作曲者は満足だったのだろうか。ただし最後のサンゲールの歌唱は例外でたいそう上首尾。
ピアノ協奏曲も「どうにか弾きおおせた」という感じ。まあゲンダイオンガクだったのだから到し方ないか。永らく作曲家の指揮と称されていたが、実際にはラヴェルは録音スタジオで指図していただけのようだ。三箇月前の初演では自らタクトをとったのだが、些か難しすぎるということで若輩フレイタス・ブランコに委ねたのであろう。
ロン女史の回想に拠れば、「午前二時か三時になって、私はもうへとへとだった。ようやく終わった…。するとラヴェルが調整室から姿を現し、『最初からもう一度やっておくれ!』──もう殺してやりたかったわ。再度やり直したけどね」