(承前)
1973年になって登場したこのアンソロジー盤に針を下ろしたとき、深く溜息をついたものだ。なんという時代に遭遇していたのだろう。このバンドの出現から消滅までの九年間の前半を、遙か極東の片田舎に身を置いていたにせよ、リアルタイムで過ごすことのできた幸福をしみじみ噛みしめた。
とりわけ「
赤盤」、すなわち「ザ・ビートルズ 1962年~1966年」の一枚目。
A-1. ラヴ・ミー・ドゥ
A-2. プリーズ・プリーズ・ミー
A-3. フロム・ミー・トゥー・ユー
A-4. シー・ラヴズ・ユー
A-5. 抱きしめたい
A-6. オール・マイ・ラヴィング
A-7. キャント・バイ・ミー・ラヴ
B-1. ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(=ア・ハード・デイズ・ナイト)
B-2. アンド・アイ・ラヴ・ハー
B-3. エイト・デイズ・ア・ウィーク
B-4. アイ・フィール・ファイン
B-5. 涙の乗車券
B-6. イエスタデイ
1962~65年における英米シングル(A面)をほぼ発売順に並べただけの選曲だが、いずれ劣らぬ傑作揃いであることに今更ながら舌を巻く。全くもって凄いバンドの凄い時代だ。そして続く二枚目。
C-1. ヘルプ
C-2. 悲しみはぶっとばせ
C-3. 恋を抱きしめよう
C-4. デイ・トリッパー
C-5. ドライヴ・マイ・カー
C-6. ノーウェジアン・ウッド
D-1. ひとりぼっちのあいつ(=ノーホエア・マン)
D-2. ミッシェル
D-3. イン・マイ・ライフ
D-4. ガール
D-5. ペイパーバック・ライター
D-6. エリナー・リグビー
D-7. イエロー・サブマリン
65年から66年にかけての選曲にも唸らされる。アルバムでいえば『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』の時代だが、必ずしも大ヒット・シングルばかりでなく、「悲しみはぶっとばせ」「イン・マイ・ライフ」のような渋めのスマッシュ・ヒットまで丹念に拾われているわい…と曲名リストを目で追っていて、思わずハッとさせられた。表(C面)の最後に「
ノーウェジアン・ウッド」という見知らぬ曲が紛れ込んでいる。
二枚組の「赤盤」全二十六曲中で唯一これだけが小生の知らない歌だ。咄嗟にそう思いながら聴き進んでいくと、なんのことはない、これはかねてから親しんできた曲「
ノルウェーの森」ではないか。へえ、そうなんだ、しばらく経つうちに前とは異なった題名で呼ばれるようになったんだ、な~んだそうか、なるほどね、とそのときは素直に納得し、それ以上深くは考えもしなかった。
ところが、である。今回『
レコード・コレクターズ』の特集記事を読んで驚愕した。1966年3月にアルバム『ラバー・ソウル』が東芝から発売されたとき、この歌、すなわち "Norwegian Wood" は
すでに「ノーウェジアン・ウッド」と題されていたのだという。
そうなのだ、それは
もともと「ノルウェーの森」という曲ぢゃなかったのだ。
(数日後につづく)