ブログでは具体的な書き込みがなされぬ限り、どんな方がいかなる動機からアクセスされるのかが皆目わからない。検索キーワードからアクセス理由を探る方法もあるらしいのだが、拙ブログではそれも施していないから、その日その日のアクセス数のみが通知されるだけだ。
昨日から今日にかけてアクセス数が急増した。普段の日よりも五十人ほど多い。いつもは「何故なのかなあ」と訝しがるだけなのだが、今日その理由らしきものが判明した。たまたま頂戴したコメントから偶然わかったのだ。
拙ブログの開設から半年しか経たぬ2007年1月、わが懐かしの60年代ポップスの一曲、
メリー・ホプキン嬢がギターを抱えながら可憐に唄って世界的に大ヒットした「
悲しき天使 Those Were the Days」(1968)をたまたま話題にし、その思いもよらぬ出自を探ったことがあった。数奇な運命に翻弄されながら、ひとつの歌が伝播し、唄い継がれていく。驚くべき歴史のドラマがそこに潜んでいた。
→Those Were the Days...
→「悲しき」カヴァー・ヴァージョン
→悲しき天使はどこから来たか
→「長い道」の旅路の果て
掻い摘んで要点のみを記すなら、
ポール・マッカートニーが「アメリカン・ポップス」と信じて秘蔵っ子ホプキン嬢に唄わせた「悲しき天使」は、こともあろうにロシア革命下のモスクワで生を享けた楽曲だった。作詞
コンスタンチン・ポドレフスキー、作曲
ボリス・フォミーン。正真正銘れっきとしたロシア大衆歌謡だったのである。原題を「
長い道 Дорогой длинною」という。
この「長い道」が放浪のロシア人歌手
アレクサンドル・ヴェルチンスキーによって繰り返し歌われ、録音されたことにより、欧米に住む亡命ロシア人の間に広まったのだという。信じがたい来歴をもつ楽曲だったのである。
それからもこの件はずっと小生の気に懸かっていた。
その数か月後
トルーマン・カポーティのノンフィクション・ノヴェル『
詩神の声聞こゆ The Muses Are Heard』を再読していて、1955年暮モスクワで彼が思いがけず晩年のヴェルチンスキー夫妻と遭遇する一節(ただし小説中では「ネルヴィツキー」夫妻として登場)に出喰わして心臓が止まるほど吃驚したりもした。
→詩神の声が聞こえるとき
それと相前後して、若きショスタコーヴィチがミュージカル・ナンバー「
二人でお茶を Tea for Two」を管弦楽用に編曲した「
タヒチ・トロット Tahiti Trot」(1927)についてあれこれ調べていたとき、「長い道」の原作者たるポドレフスキーとフォミーンのご両人に端なくも(「タヒチ・トロット」の作者として!)再会することとなった。
→ロシアのフォックストロットなのだ
昨日の「朝日新聞」朝刊の別刷り土曜版 "be on Sunday" の連載「
うたの旅人」がまさしくこの「
悲しき天使」=「
長い道」を特集していた由。
それを読んで好奇心をそそられネット上で検索した人たちが拙ブログの記事(おおかた「
悲しき天使はどこから来たか」)を参照しに訪れたということらしい。
なので早速「朝日新聞」を購読する知人から拝借して当該記事を読んでみた。
これほど有名で、なのに誰がつくった歌なのか知られていない曲も、珍しいだろう。
という一節で始まる記事は、この歌が「作詞作曲はジーン・ラスキン」名義で英歌手メリー・ホプキンの歌唱により "Those Were the Days" (邦題「悲しき天使」)として世に出た経緯をさらりと記したあと、
ただ、同じ旋律が日本では「花の季節」の題名も持つ。〈遠い道をただ馬車は過ぎてゆく〉 と、全く違う歌詞で、私は中学生の時に音楽の授業で合唱した。「ジプシー民謡」と教わった記憶がある。
記事の書き手は国末憲人という記者。おそらく小生よりもずっと年下の世代なのであろう。それにしても教科書にまで載っていたとは知らなんだ。「
花の季節」とはこの歌がフランスでヒットした際の題名 "Le temps des fleurs"(1968)に由来するものだろう。 上述のメリー・ホプキンの大ヒットの直後、おそらくそれに便乗する形でダリダやヴィッキーが唄った。同じ仏語詞でホプキンが唄った盤も存在するらしい。
Dans une taverne du vieux Londres
Où se retrouvaient des étrangers
Nos voix criblées de joie montaient de l'ombre
Et nous écoutions nos cœurs chanter
C'était le temps des fleurs
On ignorait la peur
Les lendemains avaient un goût de miel
Ton bras prenait mon bras
Ta voix suivait ma voix
On était jeunes et l'on croyait au ciel
La, la, la...
なんのことはない、"Le temps des fleurs" の歌詞は
Once upon a time there was a tavern
Where we used to raise a glass or two
で始まる "Those Were the Days" の英詞の焼き直しではないか。「花の季節」とはつまり「過ぎ去りし青春」の謂いなのだ。
記者はウクライナのキエフに赴き、「
でも、この歌は米国の歌でもジプシー民謡でもありません。誰でも知っているソ連時代の歌謡曲ですよ」という証言を耳にする。
(ふう、続きは明日にしよう)