今日は彫刻家の
若林奮(いさむ)さんの御命日だった。
亡くなられたのは2003年10月10日、訃報を聞いて愕然とした。体調がすぐれないとはうかがっていたが、奉職していた美術館でつい半年前にささやかな個展を催したばかりだったからだ。あれからもう七年になる。
若林さんは小生が謦咳に接する機会を得た数少ない美術家のひとりだ。
美術館を辞する決心をしたとき、心中密かに「
十五年も在籍して、若林さんの代表作 《振動尺》 五点をずっとしまいこんだまま疎かにしてきたのが心残りだ。罪滅ぼしに一度でいいから作家ご本人の監修の下できちんと展示しよう」と誓った。
こうして開催されたのが小さな個展「
若林奮──振動尺をめぐって」である。
展覧会を準備する過程で、若林さんの青梅のスタジオに何度か足を運んだ。町工場のような作業場の傍らにある事務所で待機していると、床に拡げた銅板を彫刻家が叩く鏨の音がカーン、カーンと規則的に響いてくる。
その音が今も耳の底で鳴り響いている。小生のなかで若林さんはいつまでも生きているのだ。これからも恐らくずっと。
所用があって今日も上京。その途中ふと立ち寄った西船橋の駅構内の書店で心惹かれる新刊の文庫本を手に取った。
グレン・グールド ジョナサン・コット
グレン・グールドは語る
宮澤淳一訳
ちくま学芸文庫
2010年
奥付をみると今日が刊行日。出来たてほやほやの一冊だ。先日たまたま演奏会のロビーで
宮澤淳一さんにお目にかかって立ち話した折り、「
今度『グレン・グールドとの対話』の新訳を自分の訳で出し直すことになりました」とおっしゃっていたのがこの本だな、と気づく。迷うことなくレジに持参する。
今夜は寝床でこれをじっくり味読することにしよう。