アレクサンドル・アファナーシエフ編纂の『ロシア民話集』に収められた一篇「脱走兵と悪魔」に基づいて
シャルル=フェンルディナン・ラミュがフランス語で台本を書き、
イーゴリ・ストラヴィンスキーが独創的な音楽を添え、
エルネスト・アンセルメ指揮のもと1918年スイスのローザンヌで初演された「読まれ、演じられ、踊られる」舞台作品『
兵士の物語 Histoire du soldat』については、当ブログでも折りに触れてしばしば話題にしてきた。
→ある指揮者の死
→兵士はヴァイオリンを弾き始めた
→俺の手を逃れることはできないぞ!
→Entre Denges et Denezy...
→生きながら死んだも同然だ!
→ストラヴィンスキーの「脱ロシア」
→「兵士の物語」の旅立ち
→コクトー、ユスティノフ、マルケヴィッチ
→マルケヴィッチ盤の呪縛
→アンセルメ翁の切歯扼腕
→同志・岩城宏之よ、君の出番だ
→兵士はついに日本語で語り始めた
→「兵士の物語」それから
→「兵士の物語」ふたたび
→「全曲」か「組曲」か、それが問題だ
→勝敗のつかない東西対決
→46年ぶり、「兵士」の生還
→"A katona története" を聴く
このたび手にしたディスクは際立って異色である。
"An American Soldier's Story: Histoire du soldat"
ストラヴィンスキー&ヴォネガット:
『アメリカの兵士の物語』
Music by Igor Stravinsky
Libretto by Kurt Vonnegut
ストラヴィンスキー: 組曲『兵士の物語』(三重奏版)
語り/デイヴィッド・ベイカー
兵士(エディ・スロヴィック二等兵)/ジョゼフ・アレッシ・Jr
司令官/デイヴィッド・ベイカー
憲兵/マックス・ストラム
赤十字看護婦キャロライン/マデリン・ハフマン
デイヴィッド・A・ウェイブライト指揮 アメリカン・チェンバー・ウィンズ
2008年5月28、29、30日、9月13日、シラキュース大学ベルファー録音スタジオ
Summit DCD 532 (2009)
カート・ヴォネガットが演奏団体から依嘱されて『兵士の物語』のテクスト新版を書き下ろしたという噂は風の便りに聞いていた。1993年のことだという。
ヴォネガットの言い分はこうだ。「1918年という年に、史上初の残忍苛烈な全面戦争が闘われている只中で書かれたにも拘らず、『兵士の物語』のテクストは余りにも長閑、余りにも牧歌的だ。そこには戦争も戦場も欠片すら描かれていない。だいたい兵士が手にする武器がヴァイオリンだなんて莫迦げている。ストラヴィンスキーが書いた鋭くアイロニカルな音楽はもっと別な物語を求めているんぢゃないか」──正確な引用ではないが、まあ大体そんなところだ。「それを私が書くのだ」と。
周知のとおりカート・ヴォネガットは一兵卒として第二次大戦に従軍し、「バルジの戦い」でドイツ軍の捕虜になり、ドレスデン爆撃の修羅場を地上から目撃した。その体験から小説『
屠殺場五号』(1969)が書かれたことを知らぬ者はなかろう。
いかにも尤もらしく響くヴォネガットの主張に惑わされてはならない。それが単なる言いがかりに過ぎないことは明らかだ。
そもそも『兵士の物語』は19世紀以前に成立した民話に基づく「
休暇を貰って帰郷する兵士の物語」なのであり、そこにアクチュアルな戦場や兵器や殺戮が描かれていないと難ずるのはお門違いだ。しかもそこには台本作者ラミュならではの流儀で同時代に対するシニカルな視線もちゃんと織り込まれているのである。それについては既に詳述したので繰り返すことはしない。
(まだ書きかけ)