昨日は四十年前のサマークリスマスを回想したが、今日はちょうど二十年前に亡くなった恩師を偲んでいる。もっとも恩師などという大仰な言い方を
小倉朗さんは好まれないだろう。とはいえニ十歳のときに出逢って以来その人柄にぞっこん惚れて私淑したのだし、音楽に限らず芸術万般への真摯な対し方を見よう見真似で学び取ったことも紛れもない事実だ。不肖の弟子であるのはむろん承知の上なのだが。
晩年の十年ほどは病魔にとりつかれて入退院を繰り返し、作曲は全くなさらなかった。「手術してからというもの、時間の感じ方がまるで変わっちゃって作曲ができなくなった」と、いつものバスバリトンの声でポツリとおっしゃった。
そのかわり趣味で始めていた油絵とパステル画の制作に多くの時間が費やされたらしく、1985年だったか鎌倉の画廊喫茶で個展を開かれたこともある。
最後にお目にかかったのはその翌年だったろうか。鎌倉の二階堂のご自宅に旧友たちと押しかけたとき撮った写真が手許に残っている。お元気そうに見えたのだが。
ご病気は癌だった。亡くなる直前にはすっかり悲観的になられ、「自分はもう誰からも忘れられてしまった」と嘆かれていたという話をあとから聞かされた。お見舞に行くべきだったと悔やんだがもう遅い。たといお目にかかっても何も言えなかったろうが。
あれから二十年経った。今や小倉さんの音楽を生で聴ける機会は殆どなく、その意味では半ば「忘れられた作曲家」かもしれない。残念なことだが仕方がない。
大切にしているCDをかけよう。
《小倉朗 管弦楽選集》
小倉朗:
日本民謡による五楽章 (1957)
オーケストラのためのブルレスク (1959)
交響曲 ト調 (1968)
弦楽合奏のためのコンポジション (1972)*
オーケストラのためのコンポジション 嬰ヘ調 (1975)*
芥川也寸志指揮 新交響楽団
1978年4月1日、東京文化会館、4月26日、日比谷公会堂*
(「小倉朗 交響作品展」実況)
fontec FOCD 3273 (1991)