先日
月本夏海さんのブログ「
夢で、逢いませう」を覗いたら、
ハル・アシュビー監督作品『ハロルドとモード
少年は虹を渡る』を公開初日に新宿武蔵野館まで観に行った記事が載っていた(
→これ)。
その当日も焼けつくような猛暑だったようで、新宿街頭の強烈な陽光を捉えた印象的なスナップショットを掲げた月本さんは、それに続けて、
この日、新宿は真夏日のよう。強烈な日差しが街に光と影のコントラストを浮かび上がらせていた。さながら“Summer in The City”。Lovin' Spoonful を聴こう。
と唐突に、しかし絶妙なタイミングであの1966年の夏へと拉し去るのである。
そうであった、夏といえば「
サマー・イン・ザ・シティ」なのだ。じりじり照りつける太陽、焼けつくような舗道、さんざめく雑踏。大都会など知らない極東の田舎の中学二年生の脳裏にまでそんな情景を思い浮かばせたのだから
ラヴィン・スプーンフルの音楽の力は絶大だった。
サスペンスフルな短い導入に続いて、弾けるような早口が都市の夏を謳う。
ビルボードNo. 1 のヒット曲はわがニッポンのチャートをも賑わした。繰り返しラジオから流れる音楽に心底「格好いい」と惚れ込んだ。英語の歌詞は断片的にしか聴きとれない。「サマー・イン・ザー・シティ」と「カモンカモン…オールナイト」のくだりしかわからなかった。それ以外は耳で聞いたまま出鱈目のカタカナに置き換えて唄っていた。そう、まるで空耳アワーを地で行くようなやり方で。
四十四年後に歌詞の意味を知った。たった今しがたである。
Hot town summer in the city
Back of my neck getting dirty and gritty
Been down isn’t it a pity
Doesn’t seem to be a shadow in the city
All around people looking half dead
Walking on the sidewalk hotter than a match-head
But at night it’s a different world
Go out and find a girl
Come on come on and dance all night
Despite the heat it will be alright
And babe don’t you know it’s a pity
That the days can’t be like the nights
In the summer in the city
In the summer in the city
Cool town evening in the city
Dressed so fine and looking so pretty
Cool cat looking for a kitty
Gonna look in every corner of the city
Till I’m wheezing like a bus stop
Running up the stairs, gonna meet you on the roof top
暑い街なか 都市の夏
襟首まわりは汗みずく
へばってしまって やりきれない
街には日陰がみつからず
そこらじゅう 死にかけた人たちが
発火しそうな舗道をうろつき歩く
でも夜ともなれば そこは別天地
外に繰り出し 女の子を見つけ
さあ おいでよ 一晩じゅう踊ろう
暑くたって なあに構うものか
ねえベイブ やりきれないよね
昼間が夜みたいぢゃないなんて
都市の夏は
都市の夏は
涼しい街なか 都市の夕
めかしこみ きれいに装って
クールな猫が仔猫ちゃんを捜してる
ありとあらゆる街角を探し回ったあげく
停車中のバスみたいに 息を切らす
さあ階段を駆け上がり 屋上で君と逢い引きだ
簡単なようで難しい英語だ。"Till I’m wheezing like a bus stop" のとこはちょっとお手上げ。即席で英文和訳してみて歌詞の軽薄さに些か驚き呆れる。
後半部分はまるきりナンパの歌ではないか。それにしては耳に届くサウンドは直截に鋭く、軟弱なところがまるで感じられない。陽光に灼かれた真夏の都市のストイックな心象風景とでもいおうか。間奏部分でクラクションやスクーター(?)の爆音など街なかの騒音が入る工夫も目から(耳から)鱗の斬新さだった。
歌詞にバス・ストップが出てくるから、というわけではないが、この曲を聴くと芋蔓式に
ホリーズのヒット曲「
バス・ストップ」までも思い出される。
Bus stop, wet day, she's there, I say
Please share my umbrella
Bus stop, bus goes, she stays, love grows
Under my umbrella
というあの曲だ。やはり軽快なアップテンポ、同じ1966年の大ヒットという共通点があるので、なんだか地続きの印象なのだ。ホリーズが英国、ラヴィン・スプーンフルが米国という違いすら埼玉の片田舎の中学生には理解されていなかったのである。
そういえばこの「バス・ストップ」も夏に因んだ歌といえなくもないのである。今ようやく歌詞を検索してそれを知ったところだ。バス停で雨傘を貸したところから恋が芽生えるという他愛ないラヴソングなのだが、
All that summer we enjoyed it
Wind and rain and shine
That umbrella, we employed it
By August, she was mine
「八月にはもう彼女は僕のもの」とあるように、この恋は夏に成就したらしい。