うわあ、またもや訃報だ。たった今、知ってしまった、ブログ「
庭は夏の日ざかり」で Sonnenfleck さんのエントリー(
→これ)を読んで…。
チャールズ・マッケラス卿が亡くなられたそうだ。14日に倫敦のご自宅で。長く癌を患われていたのだという。全く知らなかった。
今夏のプロムスにも登場する予定だった筈だ。間違いない、この25日の
Prom 12 と29日の
Prom 17 とだ。シュトラウスのワルツやドヴォジャークのセレナード(木管の)、モーツァルトのグラン・パルティータを振る予定だった。振らせてあげたかった、最後まで指揮台に留まりたかった筈だもの。亨年八十四。
リチャード・ヒコックスの六十歳、
ヴァーノン・ハンドリーの七十七歳に較べればまだしも長寿の部類だろうが、全くもって惜しいことだ、マッケラスは真にかけがえのない存在だったから。彼こそは英国で巨匠と呼ばれるべき最後の指揮者にほかならなかった。
つい英国、と口走ってしまったが、マッケラスは歴としたオーストラリア人。生まれこそ米国だが育ったのはシドニーである。長じて宗主国たる英国に留学を果たすが、ここからが彼のユニークなところで、すぐに奨学金を得てプラハに飛ぶ。チェコ最大の指揮者
ヴァーツラフ・タリフ(ターリヒ)に師事するためだ。
英国に戻ってからのマッケラスのヴァーサタイルぶりは無類だ。アーサー・サリヴァンの喜歌劇を抜粋してバレエを拵えたり、ヘンデルの王宮の花火の音楽をオリジナル編成で復活演奏したりといった具合。
小生が愛聴しているグルックの『
オルフェオとエウリディーチェ』全曲盤(スティッチ=ランダルとフォレスターが共演した)も若き日に彼が維納で指揮したものだ。先日も聴いたが瑞々しい好演だった。
だがなんといっても彼の最大の功績は(実演でもレコードでも)
ヤナーチェクの歌劇を精力的に振って広く人口に膾炙せしめた点にあろう。実際、マッケラスがウィーン・フィルと録音した『
利口な女狐の物語』全曲盤はルチーア・ポップの見事な歌唱と相俟って、未だにこれを上回る演奏に出逢ったためしがない。
もう遅い時間なのでこれからヤナーチェクのオペラ全曲という訳にもいくまい。
せめてこの陰影の深い
エルガーを聴いて、遂に生演奏に接する機会を逸した巨匠の至芸をひっそりと偲ぼう。
エルガー:
交響曲 第二番
歌曲集「海の絵」*
メゾソプラノ/デラ・ジョーンズ*
チャールズ・マッケラス卿指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1993年3月15、16日、ロンドン、ウォルサムストウ会堂
Argo 443 321-2 (1994)