(承前)
というわけで昨日からこの本にぞっこん首ったけである。頁を捲っていると思わず時の経つのを忘れてしまいそうなほどに。
Phil Baines
Puffin by Design: 70 Years of Imagination 1940-2010
Penguin Allen Lane
2010
本書は2005年に同じ版元から出た同編者によるペンギン・ブックスのアンソロジー
"Punguin by Design: A Cover Story 1935-2005" の姉妹編である。創刊年度の違いに合わせ、五年後に刊行させたところがなんとも心憎い。
頁を繰ると早速「
パフィン・ピクチャー・ブックス」の表紙(時には見開きで中身も併せて)が続けざまに登場する。その点数六十八(ほかに表紙のデザイン違いが五点)。全部で百二十点刊行されたのだから実にその過半がカラー図版で紹介されたことになる。これは快挙だ。
昨日ここで記した思い出深い(小生にとっての)最初の四冊、
『英国ファッション』も
『村と町』も
『陶器とその作り方』も
『牧場の牛』も、勿論すべて掲載されている。懐かしいなあ。最初の頃のタイトルを列挙しようか。
1. War on Land
2. War at Sea
3. War in the Air
4. On the Farm
5. A Book of Insects
6. Flowers of Field and Hedgerow
7. Animals of the Countryside
8. Great Deads of the War
9. Pond and River Life
10. A Book of Trains
見事なまでに知識絵本、学習絵本のオンパレードである。最初の三冊が『陸の戦争』『海の戦争』『空の戦争』であることに1940年創刊という時代を感じる。
ちょっとだけ本文から引いておく。
1939年の時点でノエル・キャリントン(1894~1989)は出版界で十五年も働いており、当時はカントリー・ライフ社で書籍の編集・制作に携わっていた。かねてから彼は、単純明快に書かれ、良い挿絵が入っていて、子供たちに物事を教える本の企画を温めていた。自然界やさまざまな人工の品々、歴史や地理についての本、愉しみのための本、物語などなど。直接語りかけ、値段も手頃な本。
そうした特質をすべて備えた本など存在しなかったが、彼は画家のパール・ビンダー(Pearl Binder)から見せられたロシアの教育絵本の先例や、ロジャン(フョードル・ロジャンコフスキー 1891~1970)が挿絵を描いたフランスの「ペール・カストール」絵本を目にして、自分の考えに確信を抱いた。後者のシリーズはその英訳が1938年以降アレン&アンウィン社から刊行されていたが、価格が二シリング六ペンス(=12.5p)と高く、標準的なペンギンのペーパーバック版の五倍もした。
その意気やよし! しかしながら英国には余程マシな挿絵画家がいなかったのか、どれも垢抜けない仕上がりで、出来栄えはロシアやフランスの先例に遠く及ばないのだが、こうして集大成してみると一種の熱気のようなものも感じられる。ときおり物語絵本も混じり、キャサリーン・ヘイルの「
オーランドー」シリーズや、
H・A・レイや
ヴァルター・トリーアが起用されていることは案外知られていないのではないか。
ここ迄で六十頁が費やされる。既にもう充分に元を取った気分だが、このあと本書では勿論「
パフィン・ブックス」すなわち、ペンギン・ブックスの弟分たる児童読み物シリーズの歴史が潤沢な図版とともにたっぷり辿られる。
このあたりは同時代体験が満載であり、私的な感慨なしには頁を繰ることができない。なにしろ
ナルニア国ものがたりも、
アーサー・ランサムも、
フィリッパ・ピアスも、(家人の場合は)
ムーミンや「
大草原の小さな家」シリーズも、すべてパフィンで読んだ。50年代の素朴な表紙のものも、神保町の古書店・東京泰文社でたまさか目にすることがあったので懐かしい。
80年代後半からは同時代の児童文学から遠ざかったこともあって、パフィンを手に取ることも絶えてなくなった。現今のロゴマーク(
→これ)が昔(
→これ)と異なることも初めて知った。そのせいか本書の後半には正直なところさっぱり愛着が湧かない。ここにこそノスタルジーを感じ取る世代もあろうが、デザイン的にも感心しないというのが正直なところ。
ともあれ七十年とは短くない歳月である。矜持と情愛に満ちた入念なアンソロジーに心躍らされるひとときだった。