シネマヴェーラ渋谷の帰り、駅近くの地下の書店で目についた一冊。
sumus 13
まるごと一冊 晶文社特集
2010
スムース
先ごろ文芸書の出版から手を引き全書目を在庫限りにすると公表した
晶文社だが、この雑誌特集はその撤退を知り急拵えに編まれたものとおぼしい。
およそ20世紀の最後の四半世紀を体験した本好きで晶文社の本に格別の愛着を抱かぬ者はおるまい。植草甚一、小林信彦、小野二郎、あるいはポール・ニザン、ベンヤミン、ディネーセン、エンツェンスベルガー。知性と感性、硬派と軟派が絶妙にブレンドされ、新たな時代への扉を開いた出版社として、また
平野甲賀の大胆絶妙な装丁術の実験場として、晶文社に纏わる思い出はそれこそきりがない。
残念ながら本特集はこの汲めども尽きぬ宝蔵のほんの上っ面を撫でたにとどまる。おそらく寄稿者の世代が偏ったためか、あるいはここに真の読み手がいないためか、がっかりするほど底の浅い文章が並ぶ。譬えは悪いが群盲象を撫でるの類い。これで千五百円也とは随分である。
失望ついでに申し添えるなら、誰もが似たような書目ばかり話題にし、忘れてならない何冊か、例えば『
ポケットのなかのチャペック』や『
ねこに未来はない』、翻訳物なら
ユードラ・ウェルティや
アレクサンドル・グリーンや
ジョージ・ミケシュの諸書、あるいは『
古川ロッパ昭和日記』に言及すらしないのは余程どうかしている。これでは犀のマークも成佛しまい。