薔薇園のそぞろ歩きにしたたか酔いしれた報いか、今も軽い眩暈がする。
五月もこれでおしまい。梅雨になる前の僅かばかり爽快なひとときを満喫できて幸せだ。こういう日に外を歩くと体中の細胞が呼吸しているのが感じられる。生きている歓びを全身で味わえるのだ。
この月の締め括りに聴くべき音楽は
パーシー・グレインジャーを措いてほかにない。弾むような生命感に充ち溢れた曲たち。
"Youthful Rapture: Chamber Music of Percy Grainger"
グレインジャー:
ストランド街のヘンデル
収穫の讃歌
ピーター卿の馬丁
スカンディナヴィア組曲
モリスもどき
私のロビンは緑の森に
乙女と蛙
サセックスの役者のクリスマス・キャロル
岸辺のモリー
若々しい昂奮
到着ホームで唄う鼻歌
コロニアル・ソング
ヴァイオリン&ヴィオラ/ジョエル・スミルノフ
チェロ/ジョエル・モアシェル
ピアノ/スティーヴン・ドルーリー
「コラージュ」楽員
1984年12月、1985年3月、ウェルズリー・カレッジ、ホートン記念礼拝堂
Northeastern NR 228-CD (1987)
グレインジャーのエッセンスを集約したような一枚。代表的な楽曲(多くは民謡編曲)を彼自身が室内楽(グレインジャーの好んだ呼称は「
ルーム・ミュージック」)用に仕立てたものを集めた。まだグレインジャーが広く聴かれるようになる以前に魁となった米人アンサンブルによる先駆的演奏。
かつて東京の小さなスペースでグレインジャーの連続演奏会があった折り、主宰者の宮澤淳一さんに「グレインジャーとのそもそもの馴れ初めは?」とお尋ねしたら言下にこの一枚を挙げておられた。グレインジャー入門に欠かせないディスクであるとともに、今なお傾聴に値する秀演である。