結局あのまま朝六時過ぎまで眠らずにいた。
明るくなるのがえらく早い季節だ。四時半にはもう日の出なのだという。早朝のヴェランダで一服していたらイングランド民謡「
ある朝早く Early One Morning」の旋律がふと口をついて出た。
しばしうたた寝したのち九時半起床。流石に眠たい。今にも泣きだしそうな空、と思ったらとうとう降りだした。今日はこのままずっと雨模様だろう。
ブリテン:
民謡編曲*
梣(とねりこ)の茂み
小さなウィリアム卿
ニューカースルからいらしたの?
恋人に林檎を贈ろう
夏の名残の薔薇
ある朝早く
慰めてくれる人もなく
返事のなんと甘きことよ
お抱え芸人の少年
夜のしじまにしばしば
サリー・ガーデンズ
優しいスウィート・オリヴァー
ああ、切ない、切ない(サマセット民謡)
農家の少年
夜霧の露
船乗りの少年
キルビーの旦那
兵士と船乗り
地上ニ誰カイル
美女ハ愛ノ園ニイル
王様ガ狩ニオ出マシ
糸ヲ紡グ女
二つのスコットランド民謡**
ねえ、クッション縫える?
牝羊を呼んで
『グロリア―ナ』より 第二のリュート・ソング**
「誕生日の贈物」**
カンティクル 第五番「聖ナルキッソスの死」**
ハープ組曲**
「聖と俗──八つの中世の詩」***
ウィールデン・トリオ──女声のためのクリスマス・ソング***
歌は甘かりき***
シカモアの木***
羊飼のキャロル***
テノール/ピーター・ピアーズ卿
ハープ/オシアン・エリス
ウィルビー・コンソート***
1976年2月**、3月*、モールティング、スネイプ
1976年10月***、ピーターシャム、オール・セインツ・チャーチ
Eloquence Decca 442 9448 (2008)
ピーター・ピアーズ卿の歌う民謡集といえばブリテンのピアノ伴奏版(1961、62年録音)が名高いが、これはその十数年後に珍しくもハープ伴奏で収録したもの。多くは旧録音がある(
下線したものがそれ)。そのせいか一度LPで出たきり永く顧みられることなく、この濠州盤が初のCD覆刻なのだという。
1976年という録音年に胸が痛む。三年前に心臓を患ったベンジャミン・ブリテン卿は一命はとりとめたものの重篤な病の床にあった。
ピアーズは公私にわたり永年ブリテンの同伴者であり、多くの声楽曲が彼を霊感源とし彼のため書かれたのは周知のとおり。リサイタルのピアノ伴奏も専らブリテンが務めていた。最愛の伴侶が倒れてからというもの、パートナー不在となったピアーズはやむなく英国一のハーピスト、オシアン・エリスに白羽の矢を立てツアーに出た。この民謡集の再録にエリスが起用されたのはそうした経緯からであろう。
ピアーズの声は流石に老いて音程がほうぼう不確かなのだが、これでしか聴けない民謡もあるので再発はありがたい。
ただしブリテンの編曲の妙はハープ伴奏では十全に伝わらない憾みがある。その点で十五年前のブリテン伴奏盤には遠く及ばない気がした。もちろんエリスは名手であり、彼のために書き下ろされた独奏用の「組曲」、彼とピアーズの共演を前提にした「第五カンティクル」がこうして聴けるのは貴重なのだけれども。