家人が寝しなに「ラジオを聴くのをお忘れなく」と言う。不意を突かれ怪訝な顔をしていたら、「
ほら、福岡ハカセ」と促す。そうであった、うっかり忘れかけていたが、これからNHK「ラジオ深夜便」に
福岡伸一さんが登場するのだ。
慌てて携帯ラジオを点けると、ちょうど番組が始まったところだ。簡単な紹介のあと、福岡さんが登場し、実に二時間近くも話し続けた。
昆虫少年としての生い立ちから分子生物学者への転身、生命現象を「動的平衡」と捉えるべきこと、などなど、話題の大半はすでに近著『
ルリボシカミキリの青』やその他の著作で書かれたのと同じで、その意味では新味に乏しかったのだが、淡々としつつ論理的で説得力のある話しっぷりは実に好もしい。
数学における微分の発見が17世紀になされたことに触れ、それが変転し続ける現象をいっとき止めて観察するための工夫として登場したと指摘し、「フェルメールが絵画の世界でやったことも、時間の流れをとめて静謐な世界を創りだした点で微分的といえるのではないか」と指摘されたのが新鮮な驚きだった。
一時近くなって、番組の終わりに福岡ハカセが一曲リクエスト。「クラシックでも、押しつけがましいところのないバッハが好きなんです」と前置きして、
グレン・グールドの「
ゴルトベルク変奏曲」を所望した。流れたのは1981年の再録音から冒頭のアリア。ラジオの粗末な音からもグールドの鼻歌が微かに聴きとれた。
そのまま寝床のなかで半ばまどろみつつ、しばらくラジオを流し放しにしていたら、不意に
細野晴臣の名が読まれたのでハッと覚醒。「にっぽんの歌 こころの歌」というコーナーで作品特集があるのだという。細野さんの作曲が九曲、続けざまに流れた。思い掛けないことだ。
CHOO CHOO GATTA GOT '75 (ティン・パン・アレー)
夏なんです (はっぴいえんど)
ろっかばいまいべいびい (西岡恭蔵)
ボン・ボヤージ波止場 (小坂忠)
天国のキッス (松田聖子)
風の谷のナウシカ (安田成美)
日本の人 (HIS)
ほうろう (小坂忠=2001年ヴァージョン)
風をあつめて (矢野顕子)
最後まで聴いたら四時になってしまい、なんだか頭が冴えて眠れなくなった。空が白んできた。深夜放送に浸っていた昔そうであったように。やれやれ。