朝から曇りがちだったが夕方からとうとう降りだした。でもなんとなく恵みの雨という感じ。優しい雨。ヴェランダの朝顔もようやく芽吹き始めた。
静かな夜半に聴くべき音楽は人懐かしい弦楽合奏ではないだろうか。
ドヴォルザーク:
弦楽セレナード
弦楽のための夜想曲 作品40
円舞曲 イ長調 作品54-1
円舞曲 変ニ短調 作品54-2
ボロディン(ルーカス・ドルー編):
弦楽四重奏曲 第二番(弦楽合奏用)
ユーリー・トゥロフスキー指揮
イ・ムジチ・ド・モンレアル(モントリオール・イ・ムジチ)
1995年8月17~23日、モントリオール ナティヴィテ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュ聖堂
Chandos CHAN 9484 (1997)
ドヴォルザークの
弦楽セレナードは四十年来の愛聴曲。LP時代に飽きるほどかけたヨゼフ・ヴラフ指揮プラハ室内合奏団の端正な名演が未だに耳に残っていて、この亡命ロシア人とカナダ人アンサンブルの演奏はあちこちテンポを作為的にいじりすぎる気がする。もっとすっきりやってくれと言いたくなる。若き日の刷り込みというのはことほど左様に恐ろしい。
それにしても美しい曲だ。弦楽合奏ならではの甘美な魅力を凝縮した音楽だ、と永らく信じきっていたのだが、このセレナードにはどうやら失われた原曲があって、木管主体のアンサンブル用だった(らしい)というのだから絶句してしまう。
それはともかく、このセレナードの第四楽章(ラルゲット)がフェリーニ監督作品『道』でトランペットが奏でる哀切な「
ジェルソミーナのテーマ」に酷似しているのはよく知られた話。いや、似ているのは四分の三世紀後のニーノ・ロータのほうなのだが。
今夜しみじみ耳を傾けたかったのはむしろ
ボロディンである。これまた絶美な旋律で知られる第二弦楽四重奏曲。第三楽章「
夜想曲」は隠れもない名曲である。こちらはブロードウェイ・ミュージカル『キズメット』で用いられたこともあって人口に膾炙した。このディスクでは珍しくも弦楽合奏用に編曲されたヴァージョンが奏される。
惜しむらくはトゥロフスキーの指揮は些か感情移入が大きすぎて歌い回しが不自然。もっと淡々と奏してくれたらなあ。音楽は音楽をして語らしめよ。