慌しい一週間が過ぎた。ようやく纏まった時間がとれたので村上春樹の新作をやっと通読。技巧的には申し分ないのだが、肝腎な点は暈され謎は謎のまま先送りされた感が否めない。
なんだか中途半端な心持ちのまま放置されたような気分。音楽でも聴こう。
フォーレ:
組曲『ペレアスとメリザンド』(シャルル・ケックラン編)*
夢のあとに(チェロと管弦楽のための/アルカジー・ドゥベンスキー編)**
パヴァーヌ***
エレジー(チェロと管弦楽のための)**
組曲「ドリー」(アンリ・ラボー編)
小澤征爾 指揮
ボストン交響楽団
ソプラノ/ロレイン・ハント*
チェロ/ジュールズ・エスキン**
タングルウッド音楽祭合唱団***
1986年11月、ボストン、シンフォニー・ホール
Deutsche Grammophon 423 089-2 (1987)
『ペレアス』は最初に魅せられたフォーレだった。N響を振ったジャン・フルネで視聴したのが初めてではなかったか。だとすれば1969年秋のことだ。さもなくばミュンシュとアンセルメのLP。これらは上野の文化会館の音楽資料室で確かに聴いている。そして1970年に出てすぐ小遣いを叩いて入手したセルジュ・ボド&パリ管弦楽団のLP、これはジャケット・デザインがとにかく秀逸だった。いずれにせよドビュッシーの『ペレアス』よりも遙か以前にこの可憐な劇付随音楽に膾炙していた。
さてこの小澤の演奏はそれらに増して綿密繊細、驚くほど木目細やかな秀演である。しかも通常に奏されるケックラン編曲の四曲に加え、「
メリザンドの歌」が三曲目に挿入される。しかもそれが(まだ無名だった)ロレイン・ハント嬢によって楚々と歌われる。これが聴けるだけでも本盤には価値がある。
恐らくフォーレが書いた最も精妙な楽曲である「
パヴァーヌ」がちゃんと合唱入りのヴァージョンで含まれているのも床しい配慮であろう。精緻な織物のように絡み合う旋律線をひとつひとつ丁寧に紡ぎ出す小澤の行き届いた仕事ぶりには感服させられる。このアルバムは彼の会心の作ではないだろうか。
読書後の欲求不満は癒された。これでどうやら心安んじて眠ることができそうだ。