一度その指揮姿にTVで接したのが運の尽きだったのかもしれない。
1968年にアンセルメと共に来日し、常任職に就いたばかりのスイス・ロマンド管弦楽団を振る映像(ベートーヴェンの第五だと記憶する)が目に焼き付いてしまった。既に老境に入り足元も覚束ず、朴訥な田舎者めいた冴えない風貌と几帳面なだけの指揮ぶりに失望した。なんぢゃこれは、この爺さんがアンセルメの後継者なのか、と。悲しいかな、サイタマの高校一年生はまるで「聴く耳」をもたなかったのだ。
今回まとめてその遺産に接してみて、周到にして巧緻、秀逸な音楽性に打ちのめされる思いがする。
パウル・クレツキ師、あなたはまことに大指揮者でありました。
"Paul Kletzki: Profile"
グリンカ: ホタ・アラゴネーザ*
リムスキー=コルサコフ: 組曲『サルタン皇帝の物語』*
チャイコフスキー: アンダンテ・カンタービレ*
シベリウス: 交響曲 第二番**
シューベルト: 『ロザムンデ』序曲***
マーラー: 交響曲 第四番****、第五番より アダージエット*****
パウル・クレツキ指揮
フィルハーモニア管弦楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団***
ソプラノ/エミー・ルーズ****
1958年9月*、1955年7月**、1958年10月***、1957年4、6月****、
ロンドン、キングズウェイ・ホール
1959年10月、ロンドン、アビー・ロード、第一スタジオ*****
EMI CZS 7 67726 2 (1993)
「プロファイル」と題されたこの二枚組CDアンソロジーは EMI の黄金時代を担った巨匠たちの至芸を選りすぐった名シリーズ。ほかに指揮者ではジュリーニ、ケンペ、クリュイタンス、クベリーク、カンテッリ、ロジンスキ、マタチッチ、クルツなど、ヴァイオリンのコーガン、チェロのシュタルケル、ピアノのソロモンなどがあったと記憶するが、とにかく選曲が抜群にいいのだ。しかもここでしか聴けない珍しい演奏がいくつもある。ステレオでの初出録音というのも多かったはずだ。
(まだ聴きかけ)